第202話
テレーズ殿下を追いかけて一騎駆け出したのはアンちゃんだ。ものすごい勢いで追い上げる。まるでここ暫く全速で駆けられなかった鬱憤を晴らすかの様だ。
一方テレーズ殿下はと言うと、ミュエーに跨ってはいるが姿勢が安定していない。体が小さくて
「テレーズ殿下、手綱を確り握って下さい。」
「あわわわわわわ。」
「口を閉じて!」
アンちゃんが追いついて、テレーズ殿下と並走する。そして手綱を掴んでミュエーを止めた。危ない所だった。もし街道が曲がりくねっていたり凹凸が有ったりしたら、姫様落馬してたよ。アンちゃんだって身を乗り出して手綱掴んでるんだから、こっちも一歩間違えば落っこちるな。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
「大丈夫よ。ちょっと口の中を切っただけ。」
アンちゃんがテレーズ殿下をミュエーから降ろして、体のあちこちを調べている。幸い大した怪我はない様だ。これで大怪我なんかしていたら、俺の首と胴体はサヨウナラだよ。アリア様に怒られちゃうって。
俺を含めた皆さんも、もう休憩なんて言っていられない。大急ぎで荷物を纏めると、テレーズ殿下の下へ急いだ。もう優雅になんて言っていられない。全員でテレーズ姫様の下へ全速力。
「まったく世話を焼かせてくれるぜ、あのお転婆姫様はよ。行儀作法の稽古はどうなっているんだ。」
「あなたが剣術のまね事を教えているから、あの様なご性格に成られてしまわれたのですよ。アンドレ。」
こちらではアンドレ隊長とお付きメイドのマルグリットさんの間で言い争いが勃発か?
「二人とも止めてちょうだい。あたしは何ともないから。続きは家でやってよね。」
なんでもアンドレ隊長とマルグリットさんは夫婦なのだそうだ。テレーズ殿下が赤子の時から夫婦揃って守役に任じられたらしい。なんだ、夫婦喧嘩の延長戦だったのか。
「姫様。未だベクレル国内だったから良いものの、国境を越えてテスラ国に入っていたらどうするのですか。人の目と言うものをお考え下さい。妙な噂でも立ってしまったら、エリック殿下との婚約が破談になりますよ。」
「ミュエーから落馬したら大怪我するところだぞ。ジロー、お前もミュエーの管理を確りしておけ。」
「申し訳ございません。」
あちち、俺の方にも火の粉が飛んできちゃったよ。
「ジローはあたしが強引に体操に付き合わせたのだし、それにミュエーを止めてくれたのはアンナよ。二人は悪くないわ。」
騒ぎを起こした張本人に庇われると言うのは、文句を言えば良いのでしょうか。お礼を言えば良いのでしょうか。どちらかと言えば文句を言いたい気分です、テレーズ姫様。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます