第201話

「これはなかなか良いわね。」


 アンちゃんと一緒にラジオ体操をしたテレーズ殿下は、この体操を気に入った様だ。殿下だけではなく、お付きのメイドさん達も見よう見まねでやってたりした。皆さん馬車での移動で肩とか凝ってたんですね。でも体操にはスカート姿は向かないと思うのですが、如何でしょうか。


「差し出がましいとは思いますが、殿下はもっと基本の型を練習された方がよろしいかと存じます。」

「一応アンドレが言う通りにやってるつもりなんだけどなあ。」

「アンドレ隊長からは、どの様なご指導を受けていらっしゃるのですか?」

「アンドレの教え方はねえ、『スッと行ってズバッ、だ。』って感じ。」

「・・・・・」


 アンちゃん、言葉に詰まっちゃったよ。


「ああいう人は一種の天才ですから・・・。」


 なんだか教えを受けている立場のテレーズ殿下も大変だな。アンドレ隊長の言葉を理解しなきゃいけないんだから。想像力豊かな人じゃないと難しいよね。考えるな、感じろ!


*****


「それでは出発する。」


 アンドレ隊長の号令で本日の旅程の始まりだ。毎度の事ながらゆっくりペースで一行は進む。時々テレーズ殿下と騎乗しているアンちゃんが馬車の窓越しにお話していたりする。


「何時の間にテレーズ殿下と仲良くなったの?」

「朝の稽古の時に、ちょっとね。」


 お話相手が増えて良かったですね、テレーズ姫様。アンちゃんも心なしか楽しそうだ。職場の雰囲気が良いっていい事だよ。と、そんなこんなで休憩時間になりました。皆さん馬車から降りて、強張った体をほぐしてます。テレーズ姫なんていつの間に着替えたのかパンツスタイルになって体操してるよ。ん、あれはラジオ体操か?


「ジロー、お前も体操でもしたらどうだ?」

「分かりました。ご一緒させて頂いても宜しいでしょうか。」

「ええ構わないわよ。さあ、こっちに来て一緒にやりましょ。」


 俺は請われるままテレーズ姫の隣でラジオ体操をする羽目になった。仕方が無いなぁ、本場のラジオ体操を見せてやるか。そう思った俺は、握っていたミュエーの手綱を馬車に繋いで体操を始めた。


「いっただきーぃ。」


 俺が手を腰に体を後ろに反らしている隙に、テレーズ姫は素早くミュエーの手綱を解いた。そしてじゃじゃ馬姫はミュエーに跨ると一気に駆けだした。一杯食わされた。やられた。


「姫様、何をなさるのですか。お止めください。」


 マルグリットさんが呼びかけてももう遅い。テレーズ殿下を乗せたミュエーは遠ざかっていく。おい、これって不味いんじゃないの?俺捕まって処罰されちゃうよ。


 俺が焦っていると、ミュエーが一騎テレーズ殿下を追いかける様に駆け出して行った。

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