第200話

「街に到着だ。本日はここに宿泊する。」


 アンドレ隊長の宣言の下、各員宿泊準備開始。テレーズ殿下とその供回りの方々は勿論一番上等なお宿へ。それ以外はそれなりに。俺たちは馬小屋かって?違うよ、普段だって馬小屋で寝てたりしないって。俺たちもそれなりのお宿だよ。いつも旅する時よりはほんのちょっとグレードアップしている感じ。何となくヘルツ王国の見栄が感じられるね。


「姫様じゃないけど、体なまっちゃうわね。」

「アンちゃん、毎朝練習してるじゃない?」

「それはそうなんだけど。こんなにゆっくりペースだと、気分的に、ね。」


 どちらかと言うとアンちゃんは体を動かすのが好きなタイプだ。いつもと違って移動がのんびりペースだから、体が鈍る様な錯覚をしているのかな。


 翌朝誰よりも早く起き出したアンちゃんは、宿を出て朝稽古をする。先ずはウォーミングアップ、ストレッチ。それから木剣で素振り、型の練習を行っていく。なんだかんだ言ってたけど、アンちゃんラジオ体操気に入ったのね。もっと他の人達にも普及させようか。


 アンちゃんが朝稽古していると、何人か近づいて来た。テレーズ殿下とお付きのメイドさんだ。


「あらー、アンナも朝の運動なのね。」

「おはようございます、殿下。はい、朝稽古をしておりました。」

「そっか。アンナは剣士だものね。ねえねえ、アンナの流派は何流なの?」

「私の流派はレイウス流でございます。」


 どうやらテレーズ殿下も体をほぐしに来た様だ。そりゃそうだ。馬車に乗って一日中座っていたら、体も固くなるよね。一応人目がある所では猫被ってなきゃならない姫様としては、人目の少ない朝は体を動かすチャンスって訳だ。服装だって動き易い様にスカートじゃなくてパンツスタイルだし。


「レイウス流の剣士。格好いい響きね。」

「恐縮です、殿下。」

「あたしは時々アンドレに稽古を付けてもらうくらいだから、ほぼ自己流ね。」


 そう言うとテレーズ殿下も木剣で素振りを始めた。手を止めてその様子を見守るアンちゃん。


「恐れながら、殿下。素振りの前に先ずは体の各部、手足や首、肩、腰などを動かして、体を温めてからの方が宜しいかと存じます。」

「そうなの?」

「急に激しい運動をすると、体を痛める事がございますので。」

「あー、それでアンナは最初に変わった踊りを踊っていたのね。」


 え、見てたんですか、みたいな感じで顔を赤くするアンちゃん。ラジオ体操はそんな顔を赤らめる様なもんじゃありませんよ。全国の小学校や、何だったら職場でもやってるところあるでしょ?準備運動、ヨシ!いや、ここは元の世界前世じゃないけどさ。


「あれは踊りでは無く、体をほぐすための準備体操です。」

「じゃあ、あたしにもその体操教えてよ。」


 どうやらこの世界にもラジオ体操が広まる兆しが見えて来たぞ・・・。

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