第199話
「道中気を付けて行くのだぞ。皆の者、テレーズを頼んだぞ。」
「テレーズ、体には気を付けて。ヘルツ国王ご夫妻とエリック殿下に確りご挨拶して気に入られなさい。エリック殿下の弟君、妹君とも良い関係を築くのですよ。」
「畏まりましたわ、お父様、お母様。では行って参ります。」
テレーズ殿下が静々と馬車に乗り込んで、いよいよ出発だ。沿道はお見送りの人でごった返している。庶民にはこう言うのが娯楽なんだよ。ちょっとした事で楽しんだり、喜んだり、幸せ感じるのって素敵。それは味気ない毎日の裏返しかも知れないけどさ。
テレーズ殿下一行はゆっくりと進む。丁度人が歩くくらいの速さなので、俺とアンちゃんは交代でミュエーに乗る事にした。二人とも歩きだと何かあった時に素早く駆けて行けないし、ずっと騎乗していると疲れる。特に俺の尻が持たない、と思う。
「いつもと違ってのんびりした感じね。」
「お姫様が暴走馬車に乗ってたら、世間体が悪いからね。おかしな噂が立ったら困るだろ。」
なかなかどうしてあの猫かぶり姫、ご両親の前ではちゃんとした言葉遣いが出来るじゃないか。これならヘルツ国王へ行ってもしっぽを出さないかな?テレーズ姫の味方をする訳じゃ無いが、俺たちは黙っているけどね。ヨケイナ事ハイワナイ。お口にチャック。
*****
王都を発って数日、まだベクレル王国内という事もあって何事も起こらず馬車は進む。俺としては願ったり叶ったりなのだが、こうなると暇を持て余す人が出て来るんだね、これが。そうです、テレーズ殿下です。大当たり。休憩のため馬車を止めると、降りて来た殿下が伸びをした。
「ああー、暇ね。ずっと馬車に乗ってるだけなんて退屈だわ。アンドレ、何かやって見せてよ。」
「俺は護衛隊長だぞ。そんな
「えー、じゃぁねえ。ジロー、何かやって見せて。」
え、俺かよ。えー、ってこっちが言いたいよ。無茶言わんといて。
「私は冒険者で旅芸人ではございませんので。残念ながら、殿下を楽しませる様な
「えー、みんなつまらないの。」
「そんなに暇なら素振りでもしていたら良いだろう。」
そう言うとアンドレ隊長はテレーズ殿下に木剣を手渡した。そう言えばテレーズ殿下はアンドレ隊長に剣を習っているって言ってたっけ。
「そろそろ出発するぞ。」
アンドレ隊長の号令で護衛は隊列を組み、馬車が動き始める。俺はアンちゃんと交代してミュエーから降りると、手綱を引いて皆さんと一緒に歩く。今度はアンちゃんが騎乗する番ね。
テレーズ殿下はそんな様子を馬車の窓から眺めている。何か思いついたのか、俺の方を見てにやりと笑みを浮かべた。
「あー、早く次の休憩にならないかなぁ。」
それって悪代官が良くやる笑い方じゃないですか、テレーズ姫。
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