第196話

「暫くここで待っていてくれ。」


 アンドレ隊長はそう言うと、俺たちを客間に残して出て行ってしまった。一応俺たちはヘルツ王国の依頼で来ているので、民間人の冒険者だけど使節扱いにしてくれた様だ。ただし、客間は民間人用って感じ。調度品とか割と質素だし。


「殿下にはお目通りできるのかしら。」

「どうだろうね。せいぜいが馬車の窓から手が見られるくらいかもね。俺たちただの案内役だし。」


 普通は貴人のお顔を拝するなんて出来ないから。一般民衆はやっぱり土下座ですよ、土下座。下手に見ちゃったら処罰されそうだし。


 なんて益体も無い事を話してたら、案内の方がいらっしゃいました。これから国王陛下に拝謁するらしい。だから俺たち一般市民だってば。せいぜい偉いお役人にお会いするくらいだと思ってたよ。やっぱり土下座ですかね。見て頂きましょうか、俺の華麗な土下座を。


「いえ、あなた方はヘルツ王国のBランク冒険者と伺っています。土下座ではなくても宜しいかと思いますが?」


 案内の方にお聞きしたら、片膝をついた礼で宜しいそうです。まあこっちの方が俺的にはカッコイイから良しとしよう。ヘルツ王国とベクレル王国でやり方違うとかあるのかな。


「ちょっとジロー。落ち着きなさいよ。」

「い、いや、俺はお、落ち着いてるよ。」


 基本的に俺は前世から小市民なんだ。なんだかんだで、最近はヘルツ王国の偉いさんには慣れて来たけど、ここは別の国だよ。いつもの国王陛下じゃないのよ。なんてあれこれ思い悩んでいるうちに謁見の間に着きました。小市民は片膝ついて頭を下げてお待ちしております。


「国王陛下の御成りである。」


 いよいよベクレル王国の国王陛下がいらっしゃった様だ。ん?もうお一人分、小さな足音が聞こえるぞ。


 進行役のお役人から『面を上げよ。』とお声が掛かったが、直接見ちゃいけない。この辺りはヘルツ王国で学習済みだもんね。


「その方たちがヘルツ王国から派遣された案内役か。名を申してみよ。」


 直答して良いという事かな。ちょっとためらっていたら催促された。


「私たちはヘルツ王国より派遣されましたBランク冒険者でございます。私の名前はジロー。こちらはアンナでございます。」

「うむ、大儀である。」

「こちらがヘルツ国王からの書状にございます。」


 おれは懐から封蝋された親書を取り出した。お取次ぎのお役人が持ってきたお盆?トレイ?の上に載せると、お役人は国王陛下にお渡しする。何が書いてあるのだろう。余計な事は書かれてません様に。


「おお、お前達はエリック殿下方の教育係もしておるのか。」


 ちっ、やっぱり余計な事書いてあったよ。そう言う事はあまり表沙汰にして欲しくないんだけどなぁ。他に余計な事書いて無いよね。

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