第194話

「ねえジロー。テスラ王国の王都にも寄るの?」

「勿論さ。このまま街道沿いに行けば王都ノクミマに着くよ。何か美味しい物があると良いね、アンちゃん。」

「なによそれ。まるで私が食いしん坊みたいじゃない。」


 近隣諸国へ親善訪問するという名目で、ベクレル王国のテレーズ殿下はお越しになる。だから、テスラ王国の王都を素通りする事はあり得ない訳だ。だったらここ王都も見ておかないといけないんだよ。だから美味しい物の調査はついでと言う事にしておこう。アンちゃんの名誉のためにもね。


 という事で、本日はノクミマに1泊です。まだちょっと時間が早いから本当ならもう少し進んでも良いのだけれど、そうすると野宿になちゃうんだ。俺とアンちゃんはそれでも良いのだけれど、ベクレル王国の姫君は野宿しないよ。常識的に考えてそうでしょ。特にここ、テスラ王国の王都だし。


「ここで何か事件が起こると思ってるの?」

「いんや、そんな事は思ってないよ。だって王都で姫君が襲われたら、テスラ王国の面目丸つぶれじゃん。」

「それもそうね。」


 俺は今回の旅程で、テスラ王国内では何も起こらないんじゃないかと思っている。勿論、何も起こらないのが一番なんだけどね。でも、もしテスラ王国ではない第三国がテレーズ殿下を狙っていて、その罪をテスラ王国に擦り付けようと考えたなら。ここって狙い目かもしれないなぁ。

 

「ご飯にはまだ早いから、街中を見て回ろうか。」

「ええ、そうしましょう。ここの市場ではどんな物売ってるのかしら。」

「いやいやいやいや、見るのはお城の城門から城壁の正門までの大通りだよ。姫君は市場には行かないでしょ。」


 ちょっとしょんぼりするアンちゃん。大通りを見たら、そのあと市場に行こうね。流石に王都の大通りは道幅も広く、見通しも良かった。建物の屋上から矢を射掛ける位は出来るかも知れないけれど、姫君は馬車の中だから直ぐにどうこうなる事はなさそうだ。


 その後、確認を終えた俺はアンちゃんに手を引かれて市場へ連行された。そんなに引っ張らなくてもちゃんと行きますよ。俺だって市場に行くのに反対している訳じゃ無いよ。携行食とか、旅の必需品を補充する必要もあるからね。この燻製肉とか良いんじゃない?


 さあ、お待ちかねのご飯の時間です。料理は正直ヘルツ王国とそれ程の違いはありませんでした。でもサクサクなパイ生地のお菓子が名物らしく、アンちゃんは喜んで食べてたよ。俺としては酒のあてになるものが良かったのだけど、アンちゃんが喜んでるからまあ良いか。


 俺は市場で買った燻製肉を薄く切って、それを摘まみに酒を飲んで寝る事にした。明日、たくさん走らなきゃ・・・。

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