第191話

 ヨーゼフの工房で話をしていたら、領主代表のユルゲンがやって来た。俺がこの街に来ていると言う情報を聞きつけたらしい。


「ジロー。この街に来たら何故儂のところに真っ先に来んのだ。水臭いじゃないか。」

「今回はこの街が目的地じゃなくてだな、ベクレル王国の王都まで行く途中に寄っただけだよ。アンナに渡す剣の様子見さ。」

「ベクレル王国という事は、エリック殿下絡みか?」

「お察しの通りさ。」


 流石は領主、事情はご存知って訳だ。


「ここを通る事になるから、その時はよろしく頼むよ警備と姫君の歓待を頼むよ。」

「俺とジローの仲だろう、任せておけ酒蔵を開放して大宴会するぞ。」


 何か微妙に意識のずれがある気がするんだが。気のせいだよな、きっと。


「もう話しは終わったんだろう?そんな爺さんヨーゼフなんて放っておいて、美味い酒ブランデー飲みに行こうじゃないか。」

「まてい、ユルゲン。後から来て何をしゃしゃり出ておるか。ジローはこれから儂と美味い酒ウィスキーを飲みに行くんじゃぞ。」


 未だこの街はブランデーとウィスキーで争っているのか。ある意味平和で良かったよ。俺?俺はどっちも好きだから中立の立場を守ってるさ。二人のやり取りを見ていると、アンちゃんから袖を引っ張られた。


「分かってるでしょ。あんまり飲み過ぎちゃダメよ。」

「俺はそんな事は、・・・ハイ、ワカリマシタ。」


 アンちゃんの目が怖い。俺は何時だってマイペースで飲んでるだけなんだが、こいつらが勝手に盛り上がる暴走するんだよ。まあ、燃料べているのは俺なんだが。


 俺とアンちゃんのやり取りには一切関知せず、俺はユルゲンとヨーゼフに両脇を抱えられて居酒屋へ引きずられて行った。酒宴サバトの始まりだ・・・。居酒屋にはもう店に入り切れないくらいドワーフが集まっている。なんたって街中俺の親友だらけだからな。


「遅いぞ、ジロー。俺たちは待ちくたびれて先に飲んどるぞ。」

「アンナと新婚旅行の下見って聞いたが。」

「下見ってなんじゃ。儂は移住するんで家を探しに来たって聞いたわい。」

「何だと本当か。よし、俺がその家を建ててやるぞい。」


 もう手遅れだわ、アンちゃん。既にカオスになってるよ。


「俺達は仕事の途中で寄っただけだから。新婚旅行でもその下見でもないし。移住は・・・考えておくよ。」


 結局また大宴会になってしまったが、これは仕方の無い事なんだ。酒が絡むとハイテンションになっちゃうだけで、ラジアンに住んでいるドワーフはみんないい奴ばかりなんだ。


「アンちゃん。これはみんなが自主的にやってる事で、俺のせいじゃ無いからね。」

「分かったわよ、もう。仕方ないわね。あら、あっちに暗い顔をした人達がいるけど、どうしたのかしら?」

「本当だ。」


 俺はちょっと席を外すと、暗い顔の一団に近づいた。


「タイミングが悪いよ、ジロー。昨日、いや明日でも良い。今日を外してくれれば良かったのに。」


 本日当直の奴らだった。宴会に混ざる訳にも行かず、つまらなそうに飯だけ喰っている。それでもコップ1杯の酒は付いているけど。


「これは非番の時に飲めよ。」


 酒なくて何の己が桜かな。俺はこっそり酒が入った甕を渡してやった。

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