第190話

「これは国王陛下からベクレル国の国王へ宛てたの親書だ。無くさない様に。」

「承りました。それでは行って参ります。」

「頼んだぞ。」


 俺たちは宰相閣下から書状を受け取り、ベクレル王国のテレーズ殿下をお迎えに向かった。長旅の始まりだ。またお尻が痛くなったらどうしよう。いや、確実に痛くなるよ。だって遠いもん。


「先ずはラジアンへ行こう。アンちゃんへプレゼントする剣の進み具合も気になるしね。」

「ヨーゼフさんが時間掛かるって言ってたから、未だ出来て無いわよ。」

「どうせ途中だし。」

「あー、どうせまたお酒飲みたいだけなんでしょう。」

「い、いやそんなことは無いよ。ほんの少し、ちょっとだけだよ。・・・ハイ、嘘つきました。お酒飲みたいです。」

「はぁ~、程々にしておいてね。」


 アンちゃんの無言の圧力に負けました。俺の心はお見通しだ。だけどね、アンちゃん。ラジアンに行ったらどうせ飲む事になるんだよ。宿命だと思って諦めておくれ。


 ミュエーに揺られてやって来ましたドワーフの街、ラジアン。おーいみんな、元気にしてたか?


「じゃぁ、早速。」


 居酒屋へ入ろうとすると、後ろから襟首を掴まれた。


「ヨーゼフさんの所へ行くんでしょ。」


 そんなに睨まないでよ、アンちゃん。冗談だよ、冗談。行くって、行きますから。そんなに引っ張らないでよ。く、苦しい・・・。俺はアンちゃんに引きずられる様にしてヨーゼフの工房へ連れて行かれた。ま、用事は先に済ませておいた方がゆっくり出来るか。


「コンチハ!!」


 今日も入り口で大声を出すと、少ししてヨーゼフが出て来た。


「おお、ジローじゃないか。今日はウィスキーアレの差し入れか?」

「違うから。大体最初に前金として半分渡してるだろ。」

「そうは言ってもなあ。飲んじまったら無くなっちまうだろう?」


 どんだけ飲むつもりなんだよ。そう言えば、前金現物支給渡す時も30樽じゃ足りないってブツブツ言ってたしな。


「用が済んだら俺は居酒屋に居るから。」

「なに、本当か!良し、さっさと用事を済ませよう。」


 清々しい程に呑兵衛だな、ヨーゼフ。


「依頼している剣の進み具合はどうだい?」

「順調じゃわい。今は金属の配合を見極めるために試作23本目の剣を打っておる。」

「おい、1本の剣を作るのにそんなに試作するのかよ。」

「何を言っとる。儂が最高の剣を打ってやると言ったろうが。この位の数じゃ足りないくらいだわい。」


 仕事に誇りを持つのは良い事だと思うけど、本当に国宝を作る気じゃないだろうな。隣を見るとアンちゃんがもじもじしながらも嬉しくて仕方ないと言う顔をしている。アンちゃんのためじゃぁ仕方が無い。追加でウィスキーを何樽か出してあげよう。当然俺も飲むぞ。

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