第188話

「みんな上達するのが早いわね。私なんていくら練習しても上手くならないのに。」

「うん。教えてない事までやってくれるから驚いたよ。」


 王城からの帰り、俺とアンちゃんとの会話は自然と今日の練習内容になった。


「最後に決めたギルバート殿下の作戦は、きっと剣術の練習からの発想ね。」

「そうなの?」

「上段から打ち下ろして来たら剣で受けるでしょ。エリック殿下は剣が無いから盾で受けたけど。すると胴体ががら空きになるの。そこを狙ったのよ。剣術の基本練習の一つね。」

「子供は発想が自由だから。」


 子供ならではの発想の柔軟さだね。おっさんはついて行くのが大変だよ。もう俺が教えなくても良いんじゃないか?殿下方なら自分たちで何とかしちゃいそうだし。もう辞めたいです、って言ったら宰相閣下はどんな顔をするだろうか。地方へ左遷かな。ああ憧れの酒飲んでゴロゴロ生活。


 なんて事を宰相閣下に言える筈もなく、代わり映えのしない毎日が過ぎて行った。殿下方子供たちは自分たちで色々とやってくれるので、俺はちょっと補助するくらいにしている。俺は自主性を重んじる男なのだ。そう言う事にしておこう。そうしよう。


 なんて事を考えていたのが良くなかったのかバレたのか、宰相閣下からお呼び出しされました。そしてまたやって参りました宰相閣下の執務室。また何やら用事を仰せつかりそうな予感がする。


「実はお前達にBランク冒険者としての仕事を頼みたい。」


 ほら、来たよ来たよ。今度は何だ?


「いったいどの様な御用件でしょうか。」

「うむ。我が国とベクレル王国は同盟を結んでおるのだが、それを一層強固にするためにベクレル王国との婚儀を公式に進める事となった。エリック殿下も10歳になられたので、ベクレル王国の姫君と正式に婚約する事となる。」


 あらまー、エリック殿下お誕生日おめでとうございます。重ねて、ご婚約おめでとうございます。いやー、知らなかったわー。15歳で結婚できる年齢だから、10歳くらいで婚約するのか。まあ、政治的なイロイロがあるんだろうね、きっと。で、俺たちと何の関係が?


「ご結婚は15歳になられてからだが、その前に一度ベクレル王国の姫君が我が国を訪問される事になっておる。お前達には姫君ご一行の案内と護衛を頼みたい。」


 海外出張命令、再び。ベクレル王国は陸続きだから海外じゃないか。ベクレル王国はテスラ王国を挟んで向こう側にある国で、海に面している。ヘルツ王国はテスラ王国を仮想敵国としていて、同様な関係にあるベクレル王国と同盟を結んでいる訳だ。敵の敵はお見方だ。


「俺たちだけで行くのですか、宰相閣下?」

「姫君は一応各国を表敬訪問するかたちになっている。そこへ我が国の兵を出す訳に行くまい。なに、ベクレル王国から護衛がついて来るからそう心配するな。」


 いえ、今の言葉で俺一層心配になりましたよ。それフラグですよね、宰相閣下。勘弁してください。まあ、この世界の海鮮料理は食べてみたいけどな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る