第187話

 エリック殿下は走って行って、尻もちをついたエマ姫様を抱え上げて立たせると、砂を払ってあげた。


「ごめんよ、エマ。大丈夫かい?」

「だいじょうぶです、大きい兄さま。つぎは負けませんから。」


 まだまだやる気十分な姫様。これは魔法の練習ですからね。砂遊びじゃありませんから。そこだけ、そこだけはお願いしますよ。俺は心の中でエマ姫様に手を合わせた。しかし今回はエリック殿下の作戦勝ちだな。あれは狙ってないと出来ないからね。


「素晴らしい魔法の精度コントロールでした、エリック殿下。」

「私だって練習したからな。」


 きっとエマ姫様に水球を教えた事が自分の為にもなったのだろう。案外他人ひとに教えて自分が気付く事ってあるよね。


「これでエリック殿下の2勝1敗1引き分けです。つぎの準備は宜しいですか?」


 審判役の俺が声を掛けると、ギルバート殿下から待ったが掛かった。エマ姫様と作戦会議をするらしい。ちょっと離れたところでヒソヒソお話されている。一体何をするつもり?


「今度は大きい兄さまには負けませんから。」

「お待たせして申し訳ありません、兄上。ジロー、宜しく頼む。」

「承知しました。それでは5回戦、始め。」


 またも同じ様な展開を見せる両軍。エリック殿下は歩きで距離を詰める。きっと距離が開くと水球の強度と精度が落ちてしまうのだろう。さっきみたいな事はある程度近づかないと出来ない様だ。


 対するギル・エマ連合軍。先ほどの攻撃を警戒してか動きが悪い。エマ姫様は端からそっとお顔を覗かせて砂壁に隠れている。そのままじっとしていたら棒を取られて負けてしまいますよ?姫様。さっきの相談は何だったのですか?


 有効射程内に収めたのだろう。エリック殿下が水球を放った。このままだと前回と同じ結果になってしまいますよと思った時、ギルバート殿下から「今だ!」と声が掛かった。と同時にエリック殿下の足元に穴が穿たれる。


「これはさっき見せて貰ったし、何より声を出したら駄目だろう?」


 エリック殿下は足元を見ながら余裕をもって穴を避けた。と、エリック殿下の注意が足元に向いた瞬間を狙って、今度はエマ姫様の水球が殿下を襲う。


「っ。2段構えの攻撃とは。」


 顔面に向かって飛んで来る水球をラウンドシールドでガードするエリック殿下。その時、もう一つの水球が殿下のお腹に命中した。


「そこまで。ギルバート殿下・エマ殿下チームの勝利です。」

「やりましたわ、小さい兄さま。わたしの水球があたりました。」


 あれだよ。この前エマ姫様とお手玉の練習をした時、片手に一つずつ同時操作の練習してもらったから。それの応用だよ。片手に一つずつ水球を作ったのですね、姫様。恐れ入りました。


「兄上。2段構えではなく3段構えですよ。」


 と得意そうに話すギルバート殿下。決めたのはエマ姫様だけど。まあ、作戦を考えたのは小さい兄さまだろうけどね。


 こうして今回の練習は2勝2敗1引き分けで幕を閉じた。俺、色々と疲れたからもうやりたくないわ。

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