第183話

 エリック殿下は自己評価が低いと言うより、何でも完璧に熟さなければ駄目だと言う強迫観念に駆られているのかも知れない。いくら次期国王とは言え、何でも完璧に熟すのはそりゃ無理ってもんだ。大きな声では言えないが、イヤ小声でも駄目だけど、現国王陛下だって大概だよ。


「エリック殿下は大したことは無いとお考えの様ですが、空中に水を出せる者が何人居るでしょうか。後ほど色々な形を作って頂きますので、今は形に拘る必要はございません。」


 慰めに聞こえるかも知れないけど、俺は真実を伝えているつもり。ちゃんと殿下に伝わって貰えると嬉しいかな。


「形はともかく、水球を出す練習を続けましょう。」


 その後エリック殿下と俺は水球を出しては壊し出しては壊しを繰り返した。何度も繰り返す事で、エリック殿下もコツを掴んだ様だ。形はともかく水の塊を出せる様になった。


「だいぶ上達なされましたね。今度は水を動かしてみましょう。」


 俺は手本として、水球ピンポン玉が自分の周りをぐるぐる回る様に動かして見せた。


「ぐるぐる回しても、真っ直ぐ飛ばしても、上下に動かしても、殿下のやり易い方法で結構ですよ。」


 またしても意識を集中させるエリック殿下。むむむむむ。しかし動かす方に集中しすぎたせいか、水は形を失って霧散してしまった。ありゃまあ。と、ここで休憩時間と相成りました。


「それでは殿下。殿下は引き続き水球を動かす練習を続けて頂けますか。休憩後はギルバート殿下の外の様子を見てまいりますので。」


*****


「調子は如何ですか、ギルバート殿下?」


休憩後、俺は砂場に赴いてギルバート殿下にお声掛けした。見れば砂場はモグラがはい回ったかの様に、あちこち掘り起こされ砂山もあちらこちらに出来ている。良く飽きないですね、殿下。まあこれはこれで楽しいのかも知れないけど、もう少し実用的な事を教えないと手抜きだと思われても困る。小心者なんだよ、俺は。


「ギルバート殿下。土魔法にも慣れて来られたと思いますので、次に行きましょうか。」

「次とは何をするのだ?」

「そうですねぇ。将来殿下のお役に立つ魔法の基礎なんていかがでしょうか?」

「将来役に立つ魔法だって?」


 おれは砂場の一部を整地すると土魔法で穴を掘った。出て来た砂で壁を作る。以前俺が大草原を歩いている時、寝る時に使った堀と土塁のミニチュア版だ。


「本当は堀はもっと深く、土塁は高く作るんですけどね。最初ならこんなものでしょう。」

「これは・・・。これで陣地を作るのか。」

「陣地と言っても一時的なものですけどね。ギルバート殿下の土魔法は強化されていますから、行く行くはもっと大規模なものが作れると思いますよ。」


 土魔法を強化するためにエルフの里まで行ったのだから、この位できて貰わないと困る。主にヘルツ王国が。俺?俺はヤバくなったら逃げますよ。アリア様に止められてるからね。

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