第182話

 エリック殿下の目の前に水の玉がふよふよ浮かんでいる。殿下は興味津々と言う感じで水玉をつついてみる。俺は意地悪して水玉を破裂・・・なんて事をする筈もなく。わざわざ苦手意識を植え付ける様な意地悪しませんって。水玉はプルルンっと震えたが、相変わらず浮かんでいる。


「私が騎士団との模擬戦で使った放水もコレの応用ですよ。思った所に水を作り出せる様になると、応用範囲が広がります。」

「例えばどの様な事が出来るのだ?」

「そうですねぇ、水の玉を飛ばして誰かを牽制する事も出来ますし、水の膜を張ればちょっとした火の粉から身を守る事も出来るでしょう。霧を作って身を隠したり、涼を取ったりする事もできますよ。」


 と、如何にもな講釈を垂れているが、俺も半分くらいは前の世界の前世の知識だから。偉そうな事をは言えないな。エマ姫様は言わなくてもとんでもない事をやらかしそうだけど、エリック殿下はお堅いと言うか、堅実と言うか。こちらが誘導しないとそれ以上進まないタイプだね。


「思ったより色々な事が出来るのだな。」

「先ほども申し上げましたが、魔法はイメージ。自由な発想が大切なのですよ。先ずは水球を作る事から始めましょう。」


 これに応じてエリック殿下はむむむむむっと意識を集中。何かこの辺り、兄弟だから集中の仕方が似てるのね。なんて雑念を抱きながら見ている俺。と、集中が途切れたのか一息入れる殿下。


「私にはなかなか難しい。」


 俺は浮かべている水球を小さくして、パチンコ玉サイズにリサイズした。これで色々と比較対象にするのに便利なパチンコ玉だ。


「では、この位の大きさで如何でしょうか?」


 再びむむむむむっとする殿下。すると殿下の目の前から水がちょろちょろっと出て来た。ただ玉にはならず、そのまま床に垂れてしまった。俺なんかは、「おっ、いい線行ってるじゃん」って思うのだが、水を出したご本人はお漏らししちゃった感じでちょっと恥ずかしそうだ。顔を赤くしている。


「良い感じですよ、殿下。手のひらではなく空中から水が出せたのですから、あと一歩です。」


 何とか殿下の気分を乗せて再度チャレンジ。水は出る様になったが相変わらず玉になる気配もなく、そのまま床を濡らすばかり。ちょっとイメージの仕方を変えていただくとしよう。


「殿下。水よ出ろとイメージされるのではなく、水のよ出ろ、とイメージしてみて下さい。」


 何回も試行を繰り返すエリック殿下。ブツブツ言いながら集中しているとちょっぴり危ない感じもするけれど、段々とそれっぽくなって来た。そして遂に形は歪ながら水の玉を作り出した。直ぐに形を失って床を濡らしはしたが。


「おめでとうございます、エリック殿下。」

「やっとこの大きさの水を作れただけだ。形も不格好だし。」


 相変わらず自己評価の低いエリック殿下。もっと誇っても良いと思いますよ。こんな事出来る人ってあまり居ないと思いますから。

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