第181話

 メイドさんから優雅な魔法のご注文頂きましたー。ハイ、喜んでー。とはなかなか行かないよなぁ。相手は何たってあのエマ殿下だよ。俺だっておしとやかに育って頂きたいとは思うけどさ。でもあの姫様が、そよそよと風を起こしたり、コップ1杯の水を出したり、蝋燭に火を灯したりするだけで満足するとはとても思えない。っていうか、そのくらいならもう教えなくても出来ちゃってるし。


 メイドさんからは良い笑顔で「よろしくお願いします」って言われちゃったけど、あれかな。メイドさんの後ろには王妃殿下が居るのか?きっとそうだ。絶対そうだ。後で怒られるに違いない。あー胃が痛い。


「ちょっとジロー。何一人でぶつぶつ言ってるの?そろそろ後半の授業を始めるんでしょ?エマ殿下がご用意なさっているわよ。」


 おっとイカン。姫様をお待たせするなんて無礼討ちになってしまう。アンちゃん、俺を現実に引き戻してくれてありがとう。


「では姫様。今度は片手に一つずつ、紙風船を操ってみましょうか。」


 良い考えが思いつかない俺は、当面の間これでお茶を濁す事にした。あとでゆっくり考えよう。


*****


 週が明けて次の2の日、本日は久しぶりにエリック殿下と授業をしている。え?ギルバート殿下?ギルバート殿下だったら外の砂場で格闘中ですよ。決して砂遊びに夢中な訳では無い、と思いたい。


「エリック殿下も土魔法の練習をなさいますか?」

「いや、土魔法はギルバートに任せた。今私が行っても邪魔をするだけだろう。後で教えて貰えれば良い。」


 王位継承権1位のこの王子様は順調に行けば次期国王となられる。当然お勉強する事も多いので、魔法の練習に掛ける時間は少なくなる。だったら、何か一つに絞った方が良さそうだな。


「承知しました。それでは殿下はどの魔法の練習をお望みでしょうか?」

「そうだな、私は水魔法の練習をしたいと思う。」

「畏まりました。」


 水魔法か。泉とか噴水とか見に行ったし、思い入れがあるんだろうなあ。エリック殿下もそれなりの量の水を出せる様になったし、今までとはちょっと違う事をやってみよう。


「それでは殿下、先ずは水を出して頂けますか。」


 頷いた殿下は手のひらから水を出す。うん、ここまでは今までと同じだね。


「はい、結構です。次は空中にみましょうか。」


 そう言うと俺はエリック殿下の目の前にピンポン玉くらいの大きさの水の玉を浮かべて見せた。いきなり目の前に水球が現れたので、殿下はギョッとした様だ。いきなりでごめんなさい。


「水は手のひらから出るのではないのか?」

「それは殿下がその様にお考えになって魔法を使われているからです。コーラス様は”魔法はイメージ”と仰られています。魔法は本来もっと自由なものなのですよ。」


 実際飲水の魔法だって手のひらから出て来るけど、体の中から絞り出している訳じゃ無いからね。もし体内から絞り出してるなら、その水を飲んでもプラマイゼロ。いや、こぼれた分だけマイナスだよ。

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