第180話
「先ずは紙風船を浮かすところから。」
これはもう既に紙の蝶々をひらひらさせられるエマ姫様にはそう難しい話じゃない。紙風船は手のひらから舞い上がって蝶々の時と同じくらいの高さでゆらゆらしている。むしろ的がデカくなった分簡単だったかな。
「次はゆっくり手元に戻します。戻した時に、手のひらに乗っけるのではなく少し浮かしておきましょうね。」
すると姫様は、送る風の力を少しずつ弱めて風船を下ろして行く。お、お上手お上手。でも最後の最後で加減を間違えた様で、紙風船はお手ての上にぽすっと着地した。
「あっ。」
「大丈夫ですよ、姫様。今度は手のひらから少し浮かす位の力加減を練習しましょうね。」
こうして紙風船を使った風魔法の練習を進めていくと、本日も休憩時間となった。メイドさんがお茶を運んで来る。本日はエマ姫様の日なので、メイドさん達はほぼエマ姫付きのメイドさんだ。それはいつも通りなんだけど、皆さん本日はご機嫌が宜しい様で。何か良い事あったのかな?エマ姫様今日がお誕生日だったりして?流石にそれは無いな。などと考えていると、ちょっと年嵩のメイドさんが小声で話しかけて来た。
「本日の魔法の練習は素晴らしいです!」
「え?いや、ありがとうございます。」
良く分らんけど褒められた。
「どの辺が良かったか、理由を伺っても宜しいでしょうか?」
事情が呑み込めない俺はメイドさんにご機嫌の理由をお聞きしてみた。メイドさん曰く、本日の練習は姿勢も良く、立ち居振る舞いも良く、非常に優雅であったと。あー、先日の砂場と比べたらそうなるかなぁ。確かに脚をがに股に開いてしゃがんだりそのまま座ったりして、優雅さとは対極にある行動だったもんね。
「今後はこの様な優雅な魔法を教えて頂けたらと思います。」
「・・・、なるべくご希望に沿う様にしたいと思いますが・・・。」
おれは歯切れの悪い返事しか出来なかった。だって、優雅な魔法なんて、そんなん思いつかないし。第一、あのエマ姫様がそれで満足するとはとても思えない。今はおっかなびっくり練習しているけど、近い将来ヨーヨー釣りのヨーヨーよろしく、紙風船をパンパンやる姿が目に浮かぶ様だ。こと魔法に関してはアグレッシブな魔法大好きっ娘だから。
立場は違えどエマ姫様の立ち居振る舞いに影響を与えるメイドさんと俺。俺の魔法練習のせいで品が無くなったとか粗暴になったとか言われると困るよ。こっちはそんな心算でやってる訳じゃ無いんだから。結果的にね、そうなっちゃうんですよ。またそのうち保護者面談しないと駄目かも知れない。
こんど水魔法で扇子の先から水を出す練習でもしましょうか?それだとどう見てもかくし芸だよなー。
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