第179話

 こうして第一回ヘルツ王国杯争奪、砂山崩し大会はエマ姫様の勝利で終了した。いやその後も時間の許す限り第二回、第三回とやったんですけどね。姫様は満足してお帰りになられた。この感じだと、近いうちにまた来そうだな。もしまた来られる様でしたら、泥だらけになっても良いお召し物で、とお付きのメイドさんに耳打ちしておいた。姫様のワードローブにそんな服あるとは思えないけどさ。


 ギルバート殿下は慣れない魔法を使い続けて流石にお疲れになられたご様子。でも結構上達した感じは得られた様で、こちらも満足そうなお顔をされている。


「本日は如何でしたか、ギルバート殿下?」

「うむ、なかなかに手ごたえを感じたぞ。」

「それは宜しゅうございました。お疲れでしょうから、本日はゆっくりとお休みになられた方が宜しいと思いますよ。」

「そうさせてもらう。・・・、ところでジロー。最近は私ばかり教えを受けていて、兄上やエマに悪い事をしている気分だ。次からは公平に面倒を見て欲しい。」

「面倒な事などございません。ギルバート殿下のご意向承りました。今後はエリック殿下やエマ殿下の授業も再開すると致しましょう。」

 

 そして迎えた7の日。はい、エマ姫様の授業の日ですね。ところで姫様。その手に握っている移植ごては何でしょうか?今日は砂場には行きませんよ。砂遊びはありません。だって姫様、土魔法無いでしょ?そう言うと、渋々こてをメイドさんへ預ける姫様。何でも毎日お散歩に来て、砂場に水を撒いているとか。お手入れありがとうございます。でも姫様、それは花壇のお花にお水をあげた方が庭師が喜ぶと思いますよ。


「それでは姫様、風魔法の復習です。この前見せて頂いた蝶々はどうなりました?」

「上手にできるようになりましたわ。」


 メイドさんから蝶々型に切り抜いた紙を受け取り、手のひらに載せる姫様。一瞬手のひらから風が吹き上げて蝶々を舞い上がらせる。その後は姫様の目の高さより少し上位の所をひらひらしながら浮かんでいる。風の強弱、方向の制御は申し分ない。


「素晴らしく上達なさいましたね。それでは姫様のためにエルフの里からお土産を持って参りましたので、これを使ってみましょう。」


 俺は懐から折り畳まれた紙を取り出すと息を吹き込んだ。それは丸く膨らむ。紙風船だ。


「これは紙風船ですよ、姫様。」


 ヘルツ王国では未だに羊皮紙が主流で、植物繊維の紙はマイナーな存在だ。ない訳じゃ無いので、紙吹雪だったり蝶々型に切り抜いて使ったりしている。だけど、宮廷で使う物だけあって、品質が良すぎるのよ。厚くて硬いんだ。魔法の練習にはちょっと使い難い。そこへ行くと、エルフ製の紙は薄くて軽い。特に紙風船に使っている紙なんて安物だから尚更だ。


「エルフの子供達はこうやって練習するらしいですよ。」


 俺は紙風船でお手玉をして見せる。そして姫様の手のひらにそっと置いた。ちょっと珍しそうに見つめる姫様。でも壊れ物を触る様にちょっと恐々している。


 そんなに高価な物じゃないので安心してください。でも在庫が少ないので、破いたり濡らしたりはしないで頂けると嬉しいです。姫様。

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