第177話
砂が程よく湿ったところで
姫様は庭師から借りて来たのか、小さな移植ごてを持っている。これで砂を掘るお心算だな。それはもう満面の笑みで砂場にご入場だ。対して、ギルバート殿下は今日も素手で砂を掘っている。でも、そろそろ魔法を使って貰わないと不味いよね。
「ギルバート殿下。そろそろ魔法で穴を掘ってみましょうか。」
「分かった。」
兄殿下はむむむむむっと意識を集中。するとポコっと砂に窪みが出来て、その隣にその窪みに見合った砂の盛り上がりが出来た。最初にしてはまあ順調な滑り出しではないだろうか。
「わたし、お山をつくるのよ。」
エマ姫様は移植ごてを使ってザクザク砂を掘っている。掘りだした砂で山を作る計画の様だ。とても楽しそうだ。楽しそうで良いのですが、向うでお付きのメイドさんがハラハラしながら見てますが、大丈夫でしょうか。お上品に砂遊びしろって言われても、俺には想像出来ない。想像出来ないからアドバイスも出来ない。これ以上礼儀作法の時間が増えない事を祈ってますよ、姫様。
絶好調なエマ姫様の向こう正面、ギルバート殿下の作業は思わしくない。まだ土魔法を使い始めたばかりだから仕方無いですが、こればっかりは慣れですよ、慣れ。それでも妹に負けたくないと思う兄の意地か、さっきより少しスピードアップしたみたいだ。でもまだエマ姫様には追い付けていない。
「なあジロー。もっと早く掘るにはどうすれば良いのだ?」
「そうですねぇ。今殿下は素手で砂を掘るイメージをされていますよね?一度姫様の移植ごてを借りて掘ってみては如何ですか。」
「成る程。エマ、少しの間そのこてを貸してくれないか。」
「わかりました。ハイ、お兄さま。」
エマ姫様からこてを受け取ったギルバート殿下は、ザックザックと砂を掘っていく。当然素手よりも何倍も早く掘れる。やっぱり道具を使うと作業の効率が違うよね。これを機に魔法機械とか発明しちゃう人出て来ないかな。俺?俺はやらないよ。面倒臭いから。そんな事しなくて良いって女神様にも言われたもん。
「どうですか、殿下。素手で掘るのとまた違った感覚でしょう?」
「そうだな。これは良いものだ。」
妹姫にこてを返すと、今の感覚を忘れないうちにイメージを固めて穴を掘る兄殿下。最初はむむむむむっとやっていたが、段々とコツを掴んだ様だ。結局、途中でメイドさんがお茶を運んできて休憩となるまで、殿下は穴と言うか溝を掘り続けた。
殿下方がご休憩の間、裏方はギルバート殿下が掘り返した部分を埋め戻して整地した。エマ姫様の陣地はそのまんま残した。だってお山を作っているのに整地しちゃうなんて、そんな意地悪しませんよ。
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