第175話

「こりゃま、煙ったいな。」


 コーラス様とのお目通りを終えた俺は、ドアや窓を開けて空気の入れ替えを行っている。室内で使用するには香の量が多すぎた様だ。危うく燻製になるところだった。・・・すみません、嘘をつきました。この位の煙で燻製にはならんわな。


 窓から入って来る風が清々しい。きりの様にかすんでいた室内はスッキリしたが、まだ何となく香のかおりがする。燻製にはならなかったが、俺やアンちゃんは言うに及ばず、王族方のお召し物に匂いが移ってしまった様だ。俺、ちょっと嫌な汗かいて来た。


 いやぁ、決して悪い匂いじゃないんだけどね。王族方的にはどうなんだろう、コレ。殿下のお召し物が果物の汁でベタベタになるかもとは思っていたけど、これは想定外だったな。俺があれこれ思い悩んでいたところで、皆様お目覚めのご様子だ。


「ギルバート殿下、ご気分は如何でしょうか。」

「何か夢を見ていた様な気がする。」

「エルフの巫女でも女神様のお言葉を明確に聞き取る事は難しいとの事です。致し方ない事かと思います。」


 そう思うと、コーラス様が魔法をお与え下さるのが3歳頃と言うのは、小さな子供が何もない所をじっと見ていたり、見えないお友達と遊んだりするって言う話と関係あるのかも知れないな。大人になるにつれて、何時までもピュアじゃいられなくなるからね。おっさんの心なんて、もう真っ黒だよ?たぶん。


 それはそうと、ギルバート殿下の変化を確認しておかなければ。コーラス様も確認しておく様にとの仰せだったし。俺は殿下を鑑定してみた。


名前 :ギルバート

性別 :男

年齢 :6歳

職業 :ヘルツ王国第二王子

レベル:6

スキル:水魔法、土魔法+2


 お、殿下いつの間にお誕生日を迎えられたのですか?って見るべきところはそこじゃない。風魔法が消えて、土魔法が+2と言う表示になっている。これは強化されたと考えても良いんだろう。ついでにレベルも上がっている。こちらは練習の成果なのだろうな。


「どうやら上手く行ったようですよ、殿下。」

「本当か?」

「試しに風魔法を使ってみて下さい。」

「・・・、っ。風魔法が使えない。」


 そりゃあ、消した魔法が使えたら困るよね。


「土魔法も使えないぞ。どうなっているんだ?」

「殿下は今まで土魔法の練習をされた事がございますでしょうか?」

「そう言われると、殆ど使った事はないな。」

「素質は十分にあるのですから、次回から土魔法の練習を致しましょう。」


 どんな高性能なCPUを搭載していたって、アプリが何も入ってなけりゃ如何しようも無いよね、そりゃ。


「分かった。宜しく頼む。」

「畏まりました。」


 ギルバート殿下はほっとした表情を見せた。こっから先は俺が頑張る番だな。ちょっと国王陛下にお願いしておかないと。


「そこで陛下。お願いがございます。」

「何じゃ、申してみよ。」

「この建物の前に砂場を作って頂きたく存じます。」


 魔法で無から有を作り出す事も出来るけど、最初は現物を使った方がやり易いし分かり易い。さあ殿下、次回は砂遊びですよ。

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