第173話

「この香は何じゃ?」

「エルフの儀式で使用する香です。この香を焚く事で、コーラス様のお声が聞こえる様になるのです。」


 国王陛下からの問に、アンちゃんが答える。大丈夫だよアンちゃん。想定問答集やったよね。落ち着いて、落ち着いて。何かあったらおっさんもフォローするから。


「エルフの秘薬とは実のところ、この桃とリンゴの事でございます。桃が希望する元素の属性を消し、リンゴが新たな属性を与える効果があります。」


 アンちゃんが説明をして行く。それを皆さん、特にギルバート殿下が真剣な眼差しで聞いている。


「それとこれらの果物は、丸齧りして全部食べて下さい。」

「食べやすい様にカットしては駄目なのですか?」


 今度は王妃殿下からのご質問だ。この問題があるから、俺はこの建物選び、参加人数を最小限に絞り込んだんだ。仮にも王子殿下ともあろうお方が、果物丸齧りのうえお召し物に汁がべたべた付いたお姿を余人に見せられ様筈が無いじゃないですか。


「申し訳けありませんが、丸齧りで全部残さずお召し上がりください。」


 アンちゃんが王子に桃とリンゴを手渡す。ちょっと緊張気味のギルバート殿下。俺こんなの丸齧りした事無いよ、みたいな目で国王陛下と王妃殿下の方を振り向く。国王陛下は良いから喰え見たいな感じだが、王妃殿下はこの子大丈夫かしら?見たいな目でご覧になられている。もしかして儀式の前にご飯いっぱい食べちゃったのかな。お腹一杯とか?


「では皆様。私に続いて祝詞を唱えて下さい。殿下は風属性の除去と土属性の付与を強くコーラス様に祈って下さい。」


 祝詞は直ぐに覚える事が出来ないから、ナタリーに紙に書いて貰った。それをロルマジアに帰る道すがら、アンちゃんが暗記するまで読み聞かせてあげた。だから今は祝詞もすらすらと言えるんだぜ。どうだ凄いだろう、うちのアンちゃんは。


 こうして皆で祝詞を唱える中、ギルバート殿下は果物に齧り付いた。それはもう汁の一滴も残すまいと言う気迫。指まで舐めそうな勢いである。やっぱり余計な人は呼ばないで正解だったよ。


 そうしているうちに、香の効果が出て来た様だ。アンちゃんやギルバート殿下が突っ伏して行く。因みに俺を含めて皆さん椅子ではなく床に直に座ってます。椅子から転げ落ちたら怪我するし。所謂胡坐と言う奴だね。あと、床にはいつもは無い絨毯が敷かれている。流石に石の床に直接座ると冷たいし。お尻を冷やすと痔になり易いって言うしね。痔は辛いぞ。お、俺は痔じゃないけどな。聞いた話だ。


 余計な話はさておき、俺はコーラス様に呼びかける様に祈りを捧げる。え?なんで俺だけ正気なのかって?それは俺の体質が毒が効き難いものだからだろう。こんなのジュースだよジュース。いや、これはお酒の話じゃなかったな。


(コーラス様。何卒ギルバート殿下の願いをお聞き届け下さい。)


 こちらからコーラス様にお声掛けするのは何時振りだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る