第168話
私はタンカレー。ファラッド王国で侯爵の地位にある者だ。我が領土の隣には、エルフの住まう迷いの森がある。そこは何処の国にも属さない言わばエルフの国。広大な原始林にはそこでしか採れない貴重な薬用キノコや、香り豊かな香木がある。それを一手に仕入れていたのが我が一族だ。しかも対価が鍛冶仕事なのだから笑いが止まらない。正直ぼろ儲けだ。
ところが、つまらないいざこざからエルフが取引を止めると言い出した。しかも今までなあなあで済ませて来た境界も厳格にすると言う。若木を抜かなければ、私の領地は森に浸食されてしまう。焚き木を拾えなくなった領民からは苦情が殺到するだろう。
だからと言ってエルフと戦端を開いて見ろ。他国がこれ幸いと干渉してくるだろう。エルフとの交易に領土拡大。確実に攻めて来るな。こんな事が国王陛下の耳に入ったらどうするんだ。ダニエルの馬鹿者め。
たった2頭のミュエーなどくれてやれば良いのだ。このテオドールとか言う商人も怪しいな。まさかダニエルと癒着しているのではないだろうか。領内の事はダニエルに任せきりだったのがまずかった。この辺りで見直す良い機会かもしれないな。
*****
「気楽に行こうよ、俺たちは~。あせってみたって、同じこと~。」
「それ何の歌?」
「俺も詳しくは知らないけど、俺のオヤジが良く鼻歌で歌ってたんだよね。子供の頃から聞かされてたから、何か耳に残っちゃってさ。」
俺たちは取り戻した俺たちのミュエーに乗ってヘルツ王国への帰途についているところだ。あの後いろいろと揉めたらしいけど、俺知らね。他国の内政まで干渉してられっかってんだ。そして何故かお詫びの印と言ってお金を貰った。勿論くれるモノは貰っておいた。何故ならば、俺は貧乏性のおっさんだからだ。
途中でキケアタンに寄って一泊した。疲れているのもあるけど、アンちゃんがどうしてもあの料理をもう一度食べたいって言うからさ。ま、俺も食べるけどね。美味しいから。料理法を学んで自分で作れるようにならないかな、アンちゃん。男は胃袋を掴めって言うでしょ。あ、男ならもう俺が居たは。
「あーぁ。帰りも船に乗りたかったな。」
「荷物で一杯だったんだから、
船が気に入ったらしいアンちゃんがボヤくけれど、折角取り戻したミュエーだからね。乗ってあげないと可哀そうじゃないか。でも船に空きが有ったら俺も船に乗ったよ。だって船の方がお尻が痛くならないからね。俺のお尻に構う事無く、ミュエーは元気一杯走って行く。
おれはまたも自分のお尻に回復魔法を使うのだった。
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