第167話

「どうした、テオドール。また揉め事か?」

「またとは酷い仰り様ですな、ダニエル様。」


 俺たちはタンカレー侯爵の城へ来ている。ダニエル様が揉め事と言ったが、正にその通りだ。俺たちのミュエーを返して欲しい。


「この冒険者達が私が買ったミュエーの取引に難癖を付けて来たのです。私は迷いの森で行方不明になった者の遺留品を買い取っただけでございます。」

「俺たちはエルフに会いに行っただけだ。その間ミュエーの世話を頼んで前金まで払ったのに、これはいったいどういう事だ。」「口を慎め。これだから冒険者は。大体迷いの森に入って、エルフ方に会う事なぞ出来まい。大方、今エルフの使節が御出でになられているのを聞きつけて、それに便乗しようと言う腹積もりであろう。」


 あれ?エルフの使節ってセシル達の事かな?鍛冶仕事の依頼だけじゃなくて、領主にも挨拶するんだ。10年振りだったらそうなるかな。


「エルフの使節が来られているなら丁度良い。俺たちの事を聞いてくれれば疑いも晴れるだろう?俺の名前はジロー。こっちはアンナだ。」

「また世迷言を。その様な事を使節殿に聞けるはずなかろう。」


 俺たちが押し問答をしていると、部屋の外が騒がしくなって来た。何か事件発生か?なんておもっていたら、バン!とドアが勢い良く開いた。


「やはりジロー殿だ。この様なところで何をされているのですか?」


 現れたのは別れて間もないセシル達だった。呼子を吹く暇もなく再会である。テンプレと違って耳は長くないけど、エルフって聴力は良いのかな。俺はミュエー達が売られてしまった事を話した。


「これはどういう事です、タンカレー卿。」

「迷いの森から1か月を過ぎても出て来なかった者たちの遺留品を処分するための法律なのです。」


 セシルと一緒に来たのはタンカレー侯爵ご本人の様だ。


「では、これは正しい行いだと?森へ迷い込んでも、森の外へ出て行く様にしてあるはずですが。大体、1か月も帰って来ない者など何人いるのですか?ここ100年位、森の中で行倒れになっている人は見た事が有りませんよ。」

「それは・・・。」

「それにジロー殿はエルフ族の恩人。その恩人に対してこの様な仕打ちをするとは許せません。今後はファラッド王国ではなく、グレイ都市同盟と取引をする事にします。森の境界も撤廃。森へ入る事も、若木を抜く事も禁止します。」


 セシル一人でそんな事決めちゃって良いのか?とハラハラしながら聞いていたが、タンカレー侯爵の方があっさり折れた。エルフとの友好関係が崩れたら、侯爵の手腕が問われかねないからね。


 こうしてミュエーは無事俺たちの下へ帰って来た。因みにあの商人とお役人は、今までの贈収賄がバレた様だ。いつの世も不埒な悪行三昧は長続きしないのだ。

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