第163話
わたしはアンナ。レイウス流の剣士。修行の旅の途中で出会ったジローと行動を共にしている。でも片時も一緒と云う訳ではないわ。別行動を取る時だってある。そんな時に真剣勝負を挑まれれば、レイウス流の剣士である以上流派の名に懸けて立ち合わなければならない時もある。
ジローが一緒なら怪我を負っても何とかしてもらえるけど、ジローと一緒じゃ無かったら。もし私が負けて死んでしまったら・・・。そんな事は考えたくない。でもジロー一人が残されたとしたら、わたしはどうすれば良いの・・・?
*****
私はナタリー。エルフ族の巫女です。巫女の仕事はもちろん重要です。でもその分退屈でもあります。私は滅多な事ではこの臍の里から外に出る事が出来ません。人の言葉で言えば、籠の鳥と言うのでしょうか。私だって外の世界へ行って見たい。色々な物を見たり聞いたりしてみたい。
所詮は叶わぬ夢です。そう思ってここ十数年暮らして来ました。でもそこにジロー様が現れたのです。もしジロー様のお側に置いて頂けたら。例えこの身は臍の里から出られなくても、心は自由に空を駆け巡れる、そんな気がするのです。ですがそれは私のエゴですね。誰かから大切な人を奪い取ってまで叶える夢では無いでしょう。
*****
アンちゃんとナタリー。二人とも押し黙ってしまった。俺としては非常に気まずい。だからと言って余計な事を言ってスベったら、一生取り戻せない何かを失いそうな気がする。ここは黙っとこう。俺は風景、俺は空気。そう言うスキル、身に付かないかなぁ。
「「あの。」」
二人の声が重なってしまった。また気まずくなる二人。この沈黙には耐えられません。お助け下さい、女神様。
「アンナさんは怪我を負ったエルフの介抱をして下さいました。その心の優しさは十分理解しています。その様な方からジロー様を奪い取る様な真似は出来ませんね。」
「いえ、わたしは剣の修行をしている身。わたしの方こそ、いつ果し合いに負けて落命するかも知れないのよ。」
「ジロー様には回復魔法があるではありませんか。」
「いつもいつも一緒に居る訳では無いし。それに回復魔法では蘇生はできないのよ。ね、ジロー。」
「そうだね。蘇生は無理なんだ。」
「だからもし、もし私が死ぬ様な事が有ったら、ナタリーさんにジローの支えになって欲しいのだけど。私の都合を押し付けてしまってごめんなさい。」
「いいえ。エルフは長命ですから。待つのは慣れています。ジローさん。もしもの時は私を頼って頂けますか?」
一時はどうなるかと思った二人の話し合い。どうやら決着がついたみたいだ。でも、まだ結婚もしていないのに、後妻が決まるっているのはどうかと思うのですが。
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