第162話

 ナタリーの要件は、やはりアリア様の事についてだった。


「この度お出ましになられたアリア様は、あの勇者を導かれたアリア様なのですか?」

「その通りだ。」

「この世界の主神は女神コーラス様。とすると、アリア様はコーラス様の従属神なのでしょうか?」

「いや、従属神なんかじゃないよ。アリア様は別の世界の女神様なんだ。」


 どちらかと言えば、アリア様がコーラス様の世話を焼いている様な・・・。何か寒気がした。これ以上考えるのは止めておこう。ナタリーには絶対に他言しない事を条件に、俺がこの世界にやって来た経緯を説明した。


「それでジロー様は女神様方とお話が出来るのですね。羨ましい限りです。」

「エルフの巫女なのだから、ナタリーにも女神様のお声が届くんでしょ?」

「私には女神様のお考えがぼんやりと伝わるだけです。まるで霧で霞んでしまっているように。今回の様にはっきりとお声が聞こえたのは初めてです。それに私の方からお声掛けする様な事は出来ません。」

「それが、今回に限りはっきりとお声が聞こえた、と。」

「お声が聞こえたのは、きっとジロー様のお側に居たからに違いありません。これは素晴らしい事です。何しろ女神様の真意が皆に正確に伝わるのですから。」


 ナタリーは居住まいを正して俺を見た。


「ジロー様。私とここで暮らして頂けないでしょうか。」


 ここでぶっ込んで来るか、ナタリーさん。何のためにアンちゃんが同席しているのか分かってないの?


「ナタリー。申し訳ないけど、俺たちは仕事でこの迷いの森へやって来たんだ。だから用を済ませて帰らなきゃならない。」

「ならばその仕事が終わりましたら、もう一度ここへお越しください。私と祝言を上げましょう。」

「いやいやいやいや、俺にはここに居るアンナって言う許嫁が居るんだ。あなたとは結婚出来ないよ。」

「エルフは長生きです。寿命が数百年もあります。その間、ずっと一人の人とお付き合いするのはとても無理なので・・・。その・・・、そっちの方は割とオープンなんです。」


 何かグイグイ来るよ、この子。この子って言っても見た目はともかく俺より年上なんだけどさ。


「俺はアンナとだって、手を握った事しかないんだよ?」


 何で俺はこんな恥ずかしい事を暴露しなきゃならないんだ?


「あら、私の手も握って下さったじゃないですか。」

「あれは治療のためだから。下心なんて無いから。」

「私では駄目ですか?」


 清楚美人のナタリーが目を潤ませて俺を見つめて来る。これはずるいよ。反則だよ。うっかり『うん』って言っちゃいそうだよ。


「駄目です、ナタリーさん。ジローはわたしと結婚するんですから。」

「でしたら、正妻はアンナ様で構いません。」

「そういう問題じゃなくて・・・。わ、わたしはジローからプロポーズされたんだから。」


 俺は一刻も早くこの場から逃げ出したいよ。それにしてもアンちゃん。いつの間にエルフの言葉上手になったの?

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