第159話

 フリーズドライされたヒュドラは原型を保ったままだ。ここで水を掛けたら生き返るかも知れない。インスタントヒュドラなんてまっぴら御免だよ。念には念を入れて止めを刺さないとね。


 神話では一つや二つ首を斬られても再生したらしいが、全部切り落とされると流石に死んだらしい。なので俺はエアカッターの魔法で全部の首を切り落とした。これでヒュドラが暴れ回ることは無いだろう。ふーぅ。


 あとはコイツの亡骸を始末するだけだが、そこはコーラス様とのお約束。引き取って頂ける事になっている。乾燥しているとはいえそこはヒュドラ。毒の塊ですよ。対処に困る。元々はコーラス様がスリッパで仕留め損なったのが原因なんだから。


「準備は整っているわよ。」


 アンちゃんが呼びに来てくれた。ナタリーの手伝いをしていたらしい。こっちがヒュドラの始末をしている間に、祭壇を準備していたのだろう。これからエルフの巫女と一緒に、コーラス様に祈りを捧げるのだ。その前にエルフ達に注意しておかないと。


「里長、皆に伝えてくれ。ヒュドラは死んだがその亡骸には絶対に近づかない様にとね。あれは死んではいるが毒の塊だ。」

「あのカサカサがか?」

「あのカサカサがだ。」

「分かった。ジロー殿のいう事だ。お前達、ヒュドラの周りを警備しろ。誰も近づけるな。」


 警備のエルフ達は弓矢を取って散って行った。これで2次災害も防止出来るだろう。いたずら小僧が木の枝でつついたりしたらそれこそ一大事になるからね。俺はアンちゃんと祭壇へ向かった。


*****


 祭壇ではナタリーが待っていた。護摩でも焚くのかと思っていたが違った様だ。まあ火を嫌うエルフに護摩は似合わないか。その代わりに香が焚かれていて、独特の香りが漂っている。恐らくこの香りには酩酊作用があって、それで神降しをするのだろう。俺がナタリーの隣に座ると、ナタリーに続いてエルフ達が祝詞を唱え始めた。暫くすると、急にナタリーが突っ伏した。え?ナニコレ?どうしたの?


(ジロー。害虫駆除よくやってくれた。助かったよ。)

 コーラス様。巫女の様子がおかしいのですが。


(神降しをする時はこんな感じになるんだよ。どっちかと言うと、お前がおかしいんだな。)

 それは存じませんでした。確かにトマヒヒンでアリア様がシスターに憑依された時も、シスターは意識を失っていました。


(そうだろう。それが普通なんだよ。大体お前はな、・・・)

 お話中のところ大変申し訳ございません、コーラス様。一刻も早く、ヒュドラの後始末をお願い致したく思います。


(やっぱりあのままじゃ駄目か?)

 ヒュドラは死にましたが、その体は我々には如何ともし難い猛毒です。何卒コーラス様のお力で消し去って頂けないでしょうか。


(あたしもアレに触るの嫌なんだよなぁ。)


 女神様であっても虫はお嫌いらしい。

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