第158話

 こちらの思惑通り、ヒュドラは沼から這いずり出て来た。酒の入った大桶に頭を近づけて、頻りに匂いを嗅いでいる様だ。


「お、飲んだ。あれは日本酒の様だな。」

「こっちの頭は薬酒を飲んでるぞ。」


 ヒュドラの頭毎に好みが違うのか、それともより傷ついている頭が薬酒を飲んでいるのか。まあ飲んでくれれば、と言うよりは沼から出てくれれば第1作戦成功だ。


「では第2作戦に移る。皆さんは下がっていてくれ。」


 俺はヒュドラに少し近づくと、この日のために懸命にイメトレに励んだ魔法を発動した。


「冷凍!」


 今までも水魔法や酒魔法で温度の調節をして来た俺だ。それの延長上にある冷凍魔法はイメージし易いものだった。先ずはこれでヒュドラを冷凍ヒュドラにする。しかし、ヒュドラの図体がデカいものだから、なかなか凍ってくれない。最初、牙をむいて襲って来る頭から凍らせようとしたが余り上手く行かない。俺は狙いを胴体の中心に変更した。


 最初は暴れまわっていたヒュドラだが、体の中心温度が下がる事で段々と動きが緩慢になって来た。頑張れ、俺。氷に閉じ込める訳じゃなくて、ヒュドラを冷凍にするんだ。やがて流れ出す血も凍り付き、完全に冷凍ヒュドラが出来上がった。


「おお、やりましたぞジロー殿。これであ奴ヒュドラも死んだのではないですか?」

「未だ安心は出来ない。油断しないでくれ。」


 俺はオーギュストに釘を刺すと、次の工程へ移った。次は風魔法の応用だ。


「気圧低下!」


 魔法はイメージ。同じ結果を起こすにもやり方は複数ある。例えば、風を起こす時に空気をひと固まりとイメージしてそれを動かせば風になる。また、気圧をコントロールしてやれば、気圧の低い方へ風が吹く。俺はその気圧を下げようとしているんだ。どこの気圧かって?それはヒュドラの体内の気圧なんだよ。


 俺はヒュドラの体内の気圧を下げて、凍り付いた水分だけが昇華する様イメージする。名付けて合成魔法フリーズドライ。なんだかインスタント食品に付けられそうな名前だな。魔法による邪道なフリーズドライは、それでも急速にヒュドラの水分を奪って行った。小一時間もすると乾燥ヒュドラの完成である。


「これはまた凄いものを見てしまいました。とても我らには真似出来ません。」


 オーギュストは大仰に言うけど、キミたちにも出来ちゃうと思うよ。多分だけど。一人で全部やらなくても、何人かで手分けしても良いしね。


「あまり広めたくない魔法なので、秘密にしておいてもらえると助かる。」

「勿論ですとも。」

「後は首を切り落とすだけだ。」


 俺はエアカッターを使ってカサカサに乾燥したヒュドラの首を刎ねた。さあ、後始末のお時間です。コーラス様。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る