第157話

 実は、ヒュドラを退治した後始末をどうしようかと悩んでいたんだ。ヒュドラが死んでも血や肉は残る。それらは漏れなく猛毒だ。血や死骸を放置しておいたら、地面に染み込んだり或いは風化して風に舞ったりするだろう。そんな事になれば、水が、土が、空が汚染されてしまう。とてもじゃないが、人やエルフが住める場所じゃ無くなってしまう。


 でも後始末はまるっとコーラス様に丸投げ出来たので、大変助かった。それまで俺はガラス固化して金属ケースに入れ、堅固な地盤に深い穴を掘って埋めようかと思っていた。それはまるで放射性廃棄物を埋めるが如く。そんな面倒くさい作業から解放されただけでもルンルン気分だ。いや、まだ退治もしてないのに気が早すぎだな。


 最後はナタリーに確認だ。一緒に祈りを捧げよ、とのお達しだからね。


「ナタリー。コーラス様からのお告げなのだが・・・。」

「私にもお告げがありました、ジロー様。ヒュドラが退治された後、ジロー様と一緒に女神様に祈りを捧げなさい、と。」

「じゃあ、そちらの方の準備は巫女様にお任せするよ。」


 はい、と返事をしてナタリーは去って行った。気になるのか、アンちゃんはナタリーの後に付いて行った。さて、残るはヒュドラ退治の段取りだ。俺はオーギュストが集めてくれたエルフ達に説明していった。


「と言う訳で、皆さんには木桶を所定位置まで運んで頂きたい。その後は俺一人で対処するから、皆さんには下がっていて欲しい。」

あの化け物ヒュドラ相手に一人で大丈夫なのか?誰か補助につけた方が良いんじゃないか?」


 オーギュストは心配してそう言ってくれる。でも、最悪奴の血が飛び散った時に俺一人なら何とか対処できるからね。足手まといは要らない。そんな言い方をしたら角が立つので、やんわりとお断りした。皆さんそんな顔しないでよ。皆さんが勇敢なのは知っているけど、後で治療するのは俺なのよ。疲れるんだから、ホント。


「もっと手前に。もう少し沼から離れた場所です。ヒュドラが沼から完全に上がって来ないと、次の手が上手く行かないので。」


 俺は大桶を運んでくれているエルフの皆さんに声を掛けた。この後俺がやる事には、ヒュドラが水に浸かっていると都合が悪いんだ。そして俺は設置された桶に酒魔法で酒を満たしていく。今回はヤマタノオロチに敬意を表して日本酒にしてみました。もう一方の桶には薬酒を注いでおく。


 準備が出来たところで一休みしていると、水からヒュドラが頭を覗かせた。待ってましたとばかり、俺は風魔法で酒の匂いをヒュドラへ送る。すると酒に気を引かれたヒュドラが沼からはいずり出て来た。そのまま大桶の方へ向かっていく。なかなか良い調子じゃないか。そのままがぶ飲みしてくれよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る