第154話

 それは俺が臍の里に着く前の晩の事だ。久し振りに夢に女神様がお立ちになられた。


(お、来たかジロー。今回はお前に頼みがあるんだ。)

 何用でございましょうか、コーラス様。・・・


 俺はコーラス様からエルフ族に起きている問題を知らされた。道理でセシルが急いでいた訳だ。ヒュドラの毒は俺の回復魔法じゃないと解毒出来ないらしい。死ぬまで激痛に悩まされるのはみんな勘弁して欲しいよね。エルフの巫女さんも瀕死の重傷らしいし。臍の里に到着してすぐにエルフ達の治療を開始した。


*****


「今の人で最後よ。お疲れ様、ジロー。」

「ああ。でも結構な人数だったよね。助けられなかった人には申し訳ない事をしたなぁ。」

「だからいつも言ってるじゃない。体を鍛えなさい、って。」


 今回ばかりはアンちゃんに反論できないな。1日、いやせめて後半日早く到着していれば、助けられた命もあったはずだ。


「分かったよ。明日からラジオ体操する事にする。」

「ラジオ体操?何よそれ?」

「体をほぐす体操だよ。」


 アンちゃんはあきれた顔をして出て行ってしまった。だけどね、いきなりハードなトレーニングしても体を壊すだけだよ。動的ストレッチは大切なんだから。そろそろ年齢的に肩とか腰とかヤバイ年頃なんだから、このおっさん。

 

 一通りの治療が終わったので、俺は約束通り里長のオーギュストを訪ねた。里長も話があるって言ってたし。恐らくコーラス様から依頼された件に関係する事だと思う。


「里長。全員の治療が終わったよ。」

「全く持って、ジロー殿には感謝の言葉も無い。この恩義、エルフ一同必ず報いて見せる。」

「でも、根本的な問題は未だ解決していないよね?」


 オーギュストは苦虫を噛み潰したような顔をした。ヒュドラは未だこの森に居るのだ。こいつをどうにかしなければ、また同じ事の繰り返しだ。害虫駆除もコーラス様から受けた使命だしね。


 その時、エルフの巫女であるナタリーが入って来た。


「おじい様、いいえ里長。私はコーラス様からのお告げを聞きました。信じられないかも知れませんが、コーラス様はジロー様にヒュドラを退治せよとお命じになられたのです。」

「それは本当なのか?ナタリー。ジロー殿?」


 コーラス様がお出ましになられた時、一緒に居たのはナタリーだったのか。巫女なら女神様のお声を聴く事が出来ても不思議じゃない。でも、俺と女神様方の関係をばらすのは止めて欲しいかな。


「俺たちもヒュドラ退治に手を貸しますよ、里長。ヒュドラアレが残っていては、また被害者が出るからね。」

「しかし。あいつは未だ沼に潜んだまま出て来ようとせん。何か良い考えがおありか?」

俺の故郷前世でも似た様な神話がありましてね。それを試してみようと思う。」


 それは俺の能力ちからが大いに役立つ作戦だ。

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