第155話

 俺たちはエルフの見張り役の案内で、遠くからヒュドラの様子を観察している。ヒュドラは沼に浸かっているが、呼吸するためなのか時々体を水面に出す。その様子を遠くから見ているんだ。よく見ると頭の後ろと言うか背中と言うか、潰れた様になっている部分があり、頑丈な鱗も割れて血が滲んでいる。


「元は水の澄んだ池だったのに、ヒュドラのせいで毒の沼になってしまってます・・・。」


 一緒について来たセシルが説明してくれた。早く何とかしないと、ヒュドラによる環境汚染が更に広がりそうだ。


「私が子供のころ、よくこの池で遊んだものですが。もう近づく事も出来ませんね。」


 それっていつ頃の事ですか?って口から出そうになったのを何とか飲み込んだ。女性に年齢の事を聞くのは失礼だもんね。


「え?それっていつ頃の事なんですか?」


 アンちゃん、同性だからってド直球すぎるでしょ。セシルさんも年齢不詳だけど、確実に俺たちより年上だと思うよ。


「うーん、そうねぇ。70年くらい前かな?」


 割とあっさり答えてくれたセシルさん。気になる事はやはり気になるので、失礼にならない様に気を付けながら聞いてみた。エルフは大体人間の5倍位の寿命があるという。300歳では早死にの部類で、500歳過ぎるとご長寿らしい。でもみんな美男美女のオッドアイ。俺たちが見ても、見かけで年齢なんて分からない。だけどエルフ同士だとある程度分かるらしい。


「目尻にね、しわが出来るのよ。イヤねぇ。私も気を付けないと。」


 そうおっしゃるセシルさんは御年81歳だそうな。人間換算だとアンちゃんと同い年くらいか。恐るべし、エルフ。そんなエルフの美と健康について話をしながら、ヒュドラの様子を伺う事しばし。ヒュドラはまた沼の中へと潜って行った。


「あの背中の傷目掛けて一斉に矢を射掛けてはどうでしょうか。」

「それよりも、先ずは沼から引きずり出さないとね。あと、傷口に矢を射かけても殺せないと思うよ。」

「ではどうやって?」


 コーラス様の様に叩き潰せば死ぬのかも知れないけど、人の身でそれは無理だ。


「ヒュドラの首を全部切り落とすのさ。先ずは沼からおびき出す準備をしないとね。」


 いよいよ俺の能力ちからの見せどころだ。先ずは大きな木桶を作って貰うようにセシルに頼んだ。数は16個。ヒュドラの頭が入る位の大きさだ。あの傷はコーラス様にスリッパで叩かれた時に出来た傷だろうから、木桶を作る時間くらいは稼げるだろう。


 木桶を16個にしたのはヒュドラの頭が8個だったから。頭一つに付き、酒1つ、薬酒1つの割合にした。嗜好品として酒を飲むのか、薬として酒を飲むのか分からなかったから、両方用意する事にした。そもそも、酒飲んでくれるよな?駄目だったら別の方法を試せば良いさ。

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