第153話

 もう少しだけナタリーの話にお付き合い下さい。


 私が目覚めたとき、そこは臍の里にある治療院のベッドの上でした。私は全身に薬草をすり潰した物を塗られ、布で巻かれた状態です。薬草のお陰で幾分か楽にはなりましたが、相変わらず全身が痛みます。私も巫女と言う立場上、薬草に関する知識は持ち合わせています。


 私に塗られているのはこの森で採れる薬草の中でも特に効果の大きいものの様です。私は3,4日意識を失っていた様なのですが、それでも殆ど回復した様には思えません。絶え間なく激痛が襲って来ます。私は死を覚悟しました。


 私が目を覚ましたと連絡が行ったのでしょう。里長がやって来ました。幸い怪我はされていない様です。それだけでも僥倖と言うべきでしょう。


「さとお、さ。わた、し、は・・・。」

「無理に話さなくても良い。今はゆっくり休め。」

「ひゅど、らは?」

「あいつは自分の怪我を治すためだろう。近くの沼に身を潜めている。なに、次に出て来た時には必ず仕留めてやる。お前は何も心配するな、ナタリー。」


 私の祖父である里長は、面会を終えると忙しそうに部屋から出て行きました。私も段々と意識が薄れて行きました。


*****


(悪い事しちまったなあ。もう直ぐあいつが来るからそれまで少しだけ我慢してくれ。)


・・・・・・・。


(お、来たかジロー。今回はお前に頼みがあるんだ。)

 何用でございましょうか、コーラス様。はて、アリア様は御出でにならない様ですが、他に誰かいらっしゃるような気が?


(エルフの森にヒュドラが逃げて行って、大変な事になってるんだ。回復魔法での治療と、ついでにヒュドラの始末を頼む。)

 畏まりました。しかし何故エルフが住む森に突然ヒュドラが現れたのでしょうか?確か今逃げて行った、と仰られましたが。


(お前、そう言う細かい所によく気が付くな。あの虫ヒュドラはここから逃げて行ったんだよ。)

 元々はコーラス様が飼われていたものなのですか?


(違うに決まってんだろう。害虫だよ、害虫。あいつヒュドラに刺されると痒くってな。刺された所もちょっと赤くなっちゃうし。)

 コーラス様がどの様なところに住まわれているのか、興味の湧くところです。それに、ヒュドラの毒でも痒くなる程度なのですね。


(害虫が勝手に入って来たんだよ。だからスリッパで叩いたんだけど、止めを刺す前に逃げられたって訳だ。)

 コーラス様のおわす場所から逃げたヒュドラが、なぜエルフの森に現れるのでしょうか?


(丁度エルフ達が神事を行っていた様でな。こことの繋がりが出来てたんだよ。前にも言っただろ。あいつらエルフ達はすごく熱心に祈りを捧げるって。)

 

*****


 エルフ族の巫女である私も、稀に女神様のお言葉を賜る事が有ります。でもそれは一方的であり、もっとあいまいなものです。勿論会話など出来ようはずもありません。一体このお方はどなたなのでしょうか?

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