第151話

 エルフの巫女ナタリーだけ治療して、ハイ終わりと言う訳にも行かないので、俺は重傷者から順に治療回復魔法をしていった。中にはナタリーを庇ってより多くヒュドラの血を浴びてしまい、亡くなった人も少なくないと言う。思えばナタリーだって際どいタイミングだったんだ。


 俺は数日掛けて毒にやられたエルフ達の治療に当たった。例え少量の血しか浴びず薬草で怪我が治ったとしても、その痛みは生涯消えることは無い。それがヒュドラの毒と言うものだ。


「エルフの里まで来て、医者の真似事をさせられるとは思わなかったよ。」

「人助け何だから頑張りなさい。次の方、どうぞー。」

「本当はコレ回復魔法、秘密にしておきたい事なんだけどなあ。」


 身動きも取れない様な重症患者の治療を終えた俺は、今アンちゃんと一緒に比較的症状の軽い人たちを診ている。最初に案内された部屋を仮の診察室にしてもらった。患者さんは1日10人程度だ。アンちゃんはさしずめ看護婦さん役。


 今まで立て続けに何人も回復魔法を掛けた事が無かったから知らなかったのだが、この魔法は疲れるんだ。重症の人たちに魔法を行使している時は気が張っていたから気にならなかったけど、終わったらそれはもうぐったり。それはもうフルマラソンを走ったかの如く。いや、フルマラソン走った事は無いけど。


「わたし不思議に思うのだけど。なぜ回復魔法だけそんなに消耗するのかしら。水魔法だって、風魔法だってこんなに体力を消耗する様な事は無かったわよね?」


 本日の治療を終えて宛がわれた部屋で寛いでいると、アンちゃんが話しかけて来た。それは俺も不思議に思う所なのだが、明確な答えを持っている訳じゃ無い。でもちょっとした心当たりならある。


「それはこの魔法がコーラス様から頂いたものではなく、アリア様から頂いたものだからじゃないかな。」


 アリア様は、今は恐らくご自分の世界に戻っていらっしゃるのではないだろうか。もしこの世界にいらっしゃったらもっと楽出来たかも。なんて神様頼みの事を考えていたら、誰かが部屋を訪ねて来た。いつの間にか饗応役ポジションに収まったセシルが御用聞きにやって来た。


「ジロー殿。我々のために貴殿に苦労を強いて、申し訳けありません。せめて何か我々に出来る事があれば言って下さい。」

「うーん。あとで里長と相談したい事が有るんだけど。」

「分かりました。治療がひと段落したら里長からも話があるとの事です。」


 俺が了承の意を伝えると、セシルは出て行った。アンちゃんも後に続いて部屋を出た。きっと剣の鍛錬をするのだろう。もう習慣となり毎日欠かさないアンちゃんだ。俺はベッドに腰を下ろして、患者さんはあと何人いるのかなぁなんて考えていた。俺の目の前のテーブルには、酒の入ったグラス俺の習慣があった。俺も毎日欠かさない男なのだ。

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