第150話
毒を浴びてから1週間も経つナタリーだ。何時まで体力が持つか分からない。おれは早速回復魔法を行使する事に決めた。その前に一つだけ聞いておかなければならない事が有る。
「里長、ナタリーの手を握っても良いか?」
巫女と言えばやはり乙女だろう。後で汚されたとか言われても困るから確認したまでだ。決してアンちゃんの目が怖いからじゃないよ。事前確認、ヨシ!
「この様な状態、この様な姿になっても手を取ってるれるとは。ああ、もちろんだともジロー殿。何なら全快した暁には嫁にやっても良い。」
何かおかしな方向に勘違いするオーギュスト。イヤ、下心があって手を握る訳じゃないからね。
「ナタリーは私の孫娘なんだ。助けてくれたら森の外に連れて行ってくれても構わない。」
だから止めてくれって。殆ど言葉の通じないアンちゃんだって、持ち前の感の良さで何かおかしな事になってると気づいて、俺を睨んでるじゃないか。
これ以上話を続けるとどんどんドツボに嵌っていきそうなので、俺はナタリーの右手の包帯を解き始めた。包帯には薬草をすり潰したものが塗られている様だ。薬草の匂いが強くなる。
「っ。」
包帯を解くに従って、俺の手も痛みを感じる様になって来た。パラライズボアの毒は何ら平気な俺だが、やはりヒュドラの毒は格別なのだろう。そして最後の包帯を外した。
ナタリーの手は赤紫色に腫れあがり、ケロイド状になっていた。俺はその手を両手で包み込む様にする。ナタリーの体内に残っているヒュドラの毒のせいだろう。俺の手も変色し始めて来る。
『ナタリーの体内にあるヒュドラの毒を分解無毒化、対外へ排出する。俺の手に付着した分も同じく分解無毒化する。』
俺はイメージを固めて回復魔法を行使した。暖かな光が収まると、ナタリーの呼吸は穏やかなものになった。そしてもう一度、今度はいつも怪我を治す時の要領で回復魔法を使った。2回目の光が収まった後、俺が手を放すと真っ白な肌のきれいな女性の手がそこにあった。
「ナタリー。しっかりしろ。私が分かるか?」
オーギュストが問いかけると、ナタリーは薄く目を開いて微かに頷いた。
「回復魔法では体力までは戻らないんだ。体力が元に戻るまで安静にした方が良い。ヒュドラの毒と受けた傷は治っている筈だ。」
今にも抱き着かんとするオーギュストを押し留めて、俺はそう説明した。
「あり、が、とう。」
ナタリーは弱弱しい声でお礼を言って来た。いいからいいから。今はおかゆでも食べて、ゆっくり寝てなさいって。
「ねえジロー。何で今回は2回も回復魔法を掛けたの?私の時はいつも1回だったわよね。」
何かこっちにも勘ぐっている人がいますよ。アンちゃん、いつも言う様だけど、何も疚しい事は無いって。
「ヒュドラの毒が想像以上に強力だったんだ。だから1回目で毒の除去、2回目でけがの回復をしたんだよ。」
毎度の事ながら、信用の無いおっさんです。
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