第148話

 おれとアンちゃんは一軒の家へと案内され、更に小部屋へと通された。


「暫くの間、ここでお待ち下さい。」


 セシルはそう言うと出て行った。最低限、テーブルと椅子だけがある部屋。体の良い軟禁状態である。おまけに家の外には見張りのエルフ付きと来たもんだ。


「私たちあんまり歓迎されて無い様だけど、大丈夫かな。」


 珍しくアンちゃんが弱気な事を言う。流石のアンちゃんも、これだけの人数が相手では勝てないとの思いからだろう。


「薬草を集めていたり、俺の回復魔法に期待したりしているという事は、怪我人か病人が居るんだろう。一先ず回復魔法を使うまでは、俺たちが害される事は無いと思いたいね。」


 それから待つ事2時間余り、外が騒がしくなったと思ったらセシルが戻って来た。


「お待たせして申し訳ありません。これから私に着いて来て頂けませんか。」

「あ、ああ。分かった。」


 移動の疲れでうつらうつらしていた俺は、寝ぼけた声で答えた。ちょっと恥ずかしい。


 里のエルフ達が遠巻きに見守る中、俺たちは村で一番大きな建物へ案内された。きっと中には村長がいるのだろう。中に通されると、そこに渋い感じのイケメンエルフがいた。


「冒険者のジロー殿とアンナ殿だったな。私はこの森の長を務めているオーギュストと言う。早速だがジロー殿が回復魔法を使えると言うのは本当だろうか。」


 挨拶もそこそこに本題に入るオーギュスト。臍の里の里長じゃなくて、森に住むエルフのトップだったんだ。人の世界で言えば国王もしくは領主って事だ。


「どうだろうか。ここで回復魔法を使って見せてはくれないか。」

「しかし、相手が居なければお見せ出来ませんが。」

「それなら私が。」


 言うや否や、セシルは鞘から短剣を引き抜くと自分の左手に突き刺した。セシルさん、アグレッシブ過ぎると言うか、グイグイ来過ぎと言うか。さあ早く、とか言いながら左手を出して来るけど、相当痛いでしょ。それ。


「分かりました。ただ一つだけお願いがあります。私が回復魔法を使える事はなるべく内密に、せめてエルフの中だけに止めて頂けますか。」

「分かった。約束しよう。」


 オーギュストがそう返事をしたところで、おれはセシルの左手を握った。暖かな光に包まれた左手には、俺が手を離した時には一切の傷跡が残っていなかった。


「セシルよ。左手は動くのか?痛みはないか?」


 驚愕の眼で見つめる中、セシルは左手を握ったり開いたり、指を動かしたりしながら答えた。


「全く問題ありません。痛みもありません。」

「おお、正しく奇跡だ。これで彼女も救われる。」


 アンちゃんは言葉がところどころしか分からないから黙って聞いているだけだが、俺はこれを秘薬の交渉ネタに使えないか頭を絞っていた。

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