第147話

 臍の里が見えて来た。偉い、俺。良くここまで辿り着いた。でも冷静になって考えると、同じ道を帰るんだよな。考えただけでもうげんなり。


 村の様子はと言うと、王都や領都と比ぶべくもないが開けた場所に家々が並んで建っている。町、いや村レベルだから、里って言うのも納得な景観だ。


「エルフって木の上ツリーハウスに住んでるんじゃないの?」


 ちょっとテンプレと違うんじゃないですか、と言う気持ちでセシルさんに問い質してみた。


「そういう里もありますが、ここは都合よく開けた場所だったそうです。私たちが木を伐り倒したのではありませんよ。それでここには大勢のエルフが集まり、臍の里になったと言う訳です。」


 テンプレの樹上生活も見てみたいが、昇り降りを考えると止めておいた方が無難だな。落っこちたら大怪我しちゃいそうだもんね。


「ご興味がお有りでしたら、後でご案内しましょうか?」

「・・・。止めておくよ。何日掛かるか分からないしね。」

「分かりました。もしお気持ちが変わりましたら、気兼ねなく仰って下さい。」


 セシルさんがいつの間にか不動産屋の営業みたいになっている。いや俺、別荘とか買いませんから。賃貸も結構です。


 そんなどうでも良い話をしていたのも束の間、樹上から誰何すいかの声が掛かった。


「止まれ!セシル。お前は薬草を見つけに行ったはずだが、そいつ等は何だ?薬草は見つかったのか?」


 見回りのエルフの様だ。油断なく矢を構えている。俺は両手を上げて敵意の無い事を示した。え?この世界でもこれで良いですよね?寝転んでお腹見せた方が良かったかな?アンちゃんは剣を腰から外して足元へ置いた。


 一応敵意が無い事は伝わった様だ。だけど依然矢は俺たちを狙っている。新たに木の陰から2名のエルフが現れた。そのうちの一人にセシルが走り寄り、小声で何かを伝えている。セシルの説得が奏功した様で、説明を受けていたエルフが手を上げると漸く弓が下ろされた。


「おおよその事はセシルから聞いた。我々に着いて来るが良い。」


 まだ警戒心を持っているエルフに囲まれて、俺たちは臍の里へと入った。因みにアンちゃんは外した剣を右手に持ち、争う意思のない事を示している。俺は武器を持って無いから平常運転だ。


「みんなピリピリしている感じだね。」

「申し訳ありません。森の外から来る者はここ100年で数名いるかどうかなので、みな緊張しているのです。しかし、貴殿の軌跡を目の当たりにすれば、みな納得する筈・・・。」

「それには里長に会って話をする必要があるわけだ。」

「その通りです。里長との目通りは、きっと私が何とかして見せます。」


 セシルは俺の回復魔法を実感しているから必死だが、他のエルフ達は怪しいよそ者に懐疑的だ。俺としては秘薬の件もあるから平和的に事を進めたいんだけどなぁ。

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