第144話

「お前は私たちの領域を侵している。直ぐに立ち去りなさい。」


 どこからともなく声が聞こえた。きっとエルフだろう。スクランブルで上がって来た戦闘機さながらの警告である。


「エルフの方とお見受けします。ですが、この森でもある程度の採集は認められているはずです。」


 買取金額に目がくらんだ俺は、粘って交渉してみる事にした。コツコツ稼がないと貯金が増えないんだよ。


「その薬草は私たちに必要なものだ。早々に立ち去るが良い。」

「しかし、この手の薬草なら森の奥の方でも手に入るのではありませんか?むしろそちらの方が豊富にある筈。なぜこの様な境界付近まで採集に来られたのですか。」

「お前達には関係のない事だ。どうしても言う事を聞かないのであれば痛い目を見るぞ。」


 次の瞬間、矢が俺の左ももに突き刺さった。威嚇の意味だろう。急所は外れている。でも痛いものは痛い。


「あいた!」


 俺が声を上げると、抜剣したアンちゃんが物凄いスピードで駆けて来て、俺の前に立ち塞がった。


「大丈夫、ジロー?」

「大丈夫だよ。急所は外してくれたみたいだし。」

「お願いだから無茶しないで。」


 すると今度はエルフの方に変化が見られた。


「っ。結界を切り裂いて入って来るとは。そこの小娘、只者ではないな。」

 

 どうやらアンちゃんは結界を切って走って来たようだ。すげえな。いつの間にそんな芸当が出来る様になったんだろう?俺だって結界があるのは分かっても、破る方法なんて分からないしな。

あ、まるっとこの辺りを燃やし尽くす・・・って、それはマズイよね。やっぱり。


「アンちゃん、いつの間にそんな事が出来る様になったんだい?」

「分からないわ。ジローが射られたから夢中で走って来ただけよ。」


 やや考え込んでいた様子のエルフは、どうやら俺たちを処分する事に決めた様だ。


「お前たちは危険だ。悪いがこの場で死んでもらう。」


 そう言うや否や、矢が数本飛んで来た。いや、俺には見えないが、信頼のおける許嫁殿には見えている様だ。剣を振って切り落とし、或いは弾き飛ばした。


 矢は数射放たれたが、直ぐに止んだ。採取が目的だったので、あまり多くの矢を用意して来なかったのだろう。それが俺たちには幸いした。ちっ、とエルフの舌打ちが聞こえる。


「やむを得ん。剣でとどめを刺すか。」


 木の陰から抜剣したエルフが現れた。どうしても俺たちは放っておいて貰えないらしい。アンちゃんと切り結ぼうと駆け寄って来る。でもそれは悪手だよ。俺は今まで相手エルフがどこに居るのか分からなかったけど、今は目の前に居るからね。


「アイスネイル。」


 俺はエルフの脚を狙って魔法を撃った。最初に矢を射かけて来たのはそちらだし、黙って殺されるなんてまっぴらだ。卑怯なんて言わないで欲しい。

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