第143話
タンカレー侯爵の領地とエルフの土地。その境目には明確な塀だのバリケードだのは無い。木が生えている所からがエルフの土地、畑地になっているところまでが侯爵領と言う事らしい。これは昔、エルフと当時の侯爵が取り決めした事だ。
放っておくと森はどんどん拡大してしまう。近所の農民は畑の雑草と一緒に、生えて来た若木も引っこ抜くらしいが、エルフは何も言わない。森に少し入って焚き木を拾うくらいまでは許容する。だが森の木や木の枝を伐ろうものなら容赦しない。専守防衛のお手本みたいなエルフ達だ。
多少エルフが譲歩しているのも、鍛冶仕事を頼んでいるからに他ならない。エルフさん、そんな事言うならもう鍛冶仕事はお断りですよ、なんて言われたらエルフも困るからね。どこの世界でも国際問題は微妙だね。
「だからアンちゃん、ちょっとくらいなら森に入っても大丈夫なんだよ。」
「でも、森の中には『この先に進むな』なんて目印は無いんでしょ?」
「それはそうかも知れないけど・・・。でも行って見ないと始まらないからね。」
そう言って俺たち二人は森へ入っていく。勿論森には街道なんて通ってないし、せいぜいが人が歩いた僅かな痕跡か獣道位だ。
折角来たんだから何か貴重な薬草でも生えていないかな、貧乏性の俺はあちらこちら鑑定しながら進む事、約100mばかり。大分方向感覚も怪しくなって来た。さすが迷いの森。
その時、俺の鑑定に何か引っかかるものがあった。目には見えない透明な何か。どうやらそれは侵入者を防ぐ結界の様なものらしかった。確かに、意識しなければそちらの方向に進みたいと思わない。無意識の忌避感が働いていた。それは結界に近づけば近づく程強くなる。
「ねえジロー。向こうへ行かない?なんかそっち、気味悪いもの。」
アンちゃんも無意識に嫌がる気持ちが湧いてきている様だ。今日は下調べだし、無理する事もないか。
「そうだね。向こうへ行こうか。」
そう言ってもう一度結界の方を向いた途端、俺は別の物を見つけてしまった。それは格別薬効が高い薬草だ。この前キケアタンの商業組合に行ったとき、偶々見た買取価格表では結構な値段が付いていた。それが群生しているのだ。貧乏性の俺には、あって困らないのがお金です。どうにかあの薬草だけでも採って帰れないものか。
「ちょっと待って、アンちゃん。すぐそこに薬草が生えているんだ。採って来るからここで待っていて。」
俺は嫌がる心を押さえつけ、無理やり体を動かして薬草に近づいた。先ほどのところから10mくらいしか進んでないのに、もう心は折れそうだし、冷や汗は滲むし。さすがは迷いの森の結界だ。
漸く薬草の生えている場所まで辿り着いた。さあ採取しようと手を伸ばしたところで、俺の隣の木に矢が突立った。
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