第122話
ミュエーの速度を落として大木の陰に入る。俺が降りるとミュエーがバサバサっと翼を羽ばたかせ、雫が飛んで来た。ちべたい。
「アンちゃん。屋根は無いけど大木の陰でまだましだから、ここで雨宿りをしよう。ミュエーを頼む。俺は焚き木を拾って来るよ。」
雨に濡れながらミュエーで走ると、体温を奪われる。夏ならまだしも、今はまだ寒い時期だ。俺たちは雨宿り出来る場所を探してここに来たって訳だ。
「大きな木だから何も無いよりマシだけど。焚き木も濡れちゃってると思うわよ。」
「大丈夫だよ。何とかなるって。」
アンちゃんにミュエーを預けて、俺は焚き木を拾って来た。
「ほらやっぱり濡れてるじゃない。これじゃ火が付かないわ。」
「大丈夫だって。ほら。」
俺は水魔法で拾って来た枝の水分を吸い取った。あっという間に枯れ枝の出来上がりだ。これに火を付けて焚火をすれば、この程度の雨ならしのげるだろう。
「え、何?何の魔法を使ったの?」
「水魔法の応用だよ。」
「へぇ、水魔法ってそんな事も出来るんだ。」
驚いている様だけど、アンちゃんだって飲水の魔法で水を出す事が出来る。水が出せるのなら、吸い出したり動かしたり出来るんじゃないかと思って練習した結果だ。俺は乾いた焚き木に火を付けた。
「じゃあ、私の服も乾かしてよ。」
「いや、これ加減が難しいんだよ。焚き木ならいくら水分を抜いても良いけど、服だと下手するとボロボロになっちゃうかもよ。」
「それは、・・・嫌ね。」
アンちゃんは自分の体を抱きしめて、俺からちょっと離れた。いやいや俺は痴漢をやらかすおっさんじゃないからね。やらないから。
「前にもっと魔法を教えて欲しい、って言ってたよね。どうせ雨が止むまでする事無いし、練習してみる?」
「うん。教えて教えて。」
以前エマ姫に教えた時と同じように、着火の魔法を使って練習する。炎を大きくしたり小さくしたりする練習だ。
「なかなか上手く行かないよぉ。ジロー。」
着火の魔法自体はちゃんと発動する。だけど、なかなか炎の大きさを変える事が出来なくて苦戦している。
魔法はイメージ。それはコーラス様の教えの通りだ。だけど普通の人は水魔法も飲水の魔法を使うのが精々だし、出せる水の量も僅かなものだ。人によって魔法の得手不得手があるのには、何か謎というか、コツと言うか、分かっていない事があるんじゃないか。俺はそう考えた。アンちゃんが毎日剣の鍛錬を欠かさない様に、俺だってちょっとは考えてるんだぜ。そして出来たものの一つがさっきの脱水魔法だ。
コーラス様からは適当に生きていれば良いとお許しを頂いているが、毎日ぼーっとして暮らすのも退屈だ。何か一つくらい目的を持って生きていた方が楽しい気がするよ。
俺はエマ姫の時と同じように、炎を大きくしたり小さくしたりするところをアンちゃんに見せた。
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