第120話

「テスラ王国のフェルプス子爵が戦勝祈願に訪れた際、女神アリア様の奇跡が起こったのです。」


 俺たちはメレカオンの領主、タリスカー伯爵に事の次第を報告している所だ。


「成る程。事の次第は分かった。ところでお前、ジローと言ったか。奇跡が起こった前後で何か変わった事はあるか?」

「いえ、残念ながらこれと言って別に変わりはありません。」


 回復魔法は前から使えたしね。殆どアリア様のアドリブに乗っかった見たいなもんだ。


「そうか。それは残念だな。ロルマジアからも何か変わった事があったら知らせる様にと連絡が来ているのだ。王家も勇者の血筋だからな。気を揉んでいるのだろう。」


 そう言えばそうだった。隣の国テスラ王国で勇者だけが使えた魔法を使ったのは不味かったかも知れないな。


「これでドワーフ自治領ラジアンへの野心は薄れたであろう。しかし我が国、我が領地に利が無いのは癪に障るな。」


 確かにトマヒヒンだけ儲かるのならこちらに旨味はないよな。何か良い方法は無い物か。また俺は無い知恵を絞る羽目になった。


「先ずはフェルプス子爵と良好な関係を築く事が第一と考えます。」

「うむ。こちらから攻め入る心算つもりは無いので、それは良かろう。所詮あ奴は小者だしな。」

「我が国の王族は勇者の血を引く者。この事は我が国ヘルツ王国は元より周辺国の民草も存じ上げている事です。新たな聖地が隣の国に出来てしまったのは残念ですが、そこを訪れたいと思う巡礼者は少なくない筈です。」

「続けよ。」

「テスラ王国側から来る者はともかく我が国を通ってトマヒヒンへ向かう巡礼者は、ここメレカオンを通る事になります。従いまして、宿泊なり買い物なりをする様になれば、それなりの金を落とす事になると愚考致します。」


 タリスカー伯爵はぶつぶつ言いながら考え込んでいる。もう一押しかな。


「巡礼者は徒歩で来る者が殆どです。街道筋の宿場町を整備或いは新設し、また街道筋の安全を確保してやれば、わざわざ危険な裏街道を通る事無くこの道を選ぶと考えます。」


「なかなか面白い考えだ。陛下や宰相とも相談してみよう。」


 これでお貴族様への報告終了っと!何かトマヒヒンの時の焼き直しみたいだけど、これで我慢してくれ。おっさんの知恵じゃこれが限界だ。


「ジローってホントに色んな事考えてるのね。」

「褒めてくれるのはアンちゃんだけだよ。」


 可愛い許嫁いいなずけだけが癒しですよ。ホント。お次は組合長への報告だ。


「悪いがロルマジアへ戻ってくれとのお達しだ。直接報告が聞きたいらしい。」


 顔を合わせるなり組合長のアントニーに言われた。アントニーとしても折角Bランク冒険者が来たのにすぐ居なくなるのは心外だろう。でもお互いお上には逆らえないからね。


「承知した。準備が出来次第ロルマジアへ出発する。」


 おれはアントニーにそう答えた。殆ど交流を持てなかったアントニーは、ちょっと寂しそうに見えた。

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