第119話

「いったいどんな剣を注文したんだい?」


 メレカオンに帰る途中、俺はアンちゃんに訊いてみた。だって街中が大騒ぎになるくらいだよ。とっても気になるじゃない。


「うん。剣としては普通よ。特別変わったところは無いわ。」

「それにしては長い事ヨーゼフと話し合っていたし、街中を巻き込んで大変な事になってたじゃないか。」

「街中が大変になったのは私のせいじゃ無いからね。」


 アンちゃんはチラッと俺の顔を見ると背を向けてしまった。ハイ、俺の酒が悪いんです。毎度ごめんなさい。


「前にね、メレカオンでピンポル流の大先生にお会いした話はしたでしょ。」

「アンちゃんの曾祖父と一緒に稽古したんだっけ。」

「そう。その大先生から、私の曾祖父がレイウス流を開いた時に使っていた剣の事をお聞きしたの。こしらえは普通なんだけど、魔力を通す様な剣だった、って。」


 出ましたテンプレ。これって魔法剣なのかな?炎を纏った剣とか、氷の刃を飛ばす剣とか、剣に雷を落としてそれで相手を斬る必殺技とか。

 でもアンちゃんって着火と飲水の魔法しか使えないし。着火の魔法だってマッチの火より少し大きいくらいだ。


「アンちゃんの曾祖父は凄い魔法使いだったの?」

「これも前に話したけど、私と同じ火と水の元素に適性があった見たい。だけど魔法の程度は私と同じくらいだった見たいよ。」

「レイウス流に魔法を使ったすごい奥義があるとか。」

「聞いた事ないわ。私が知らないだけかも知れないけど。」


 じゃあ何でわざわざそんな剣を使っていたんだろう?


曾祖父開祖が使っていた剣は家宝としてうちにしまってあるの。そのうち結婚の報告に行かなきゃならないから、興味があったらその時見せてあげるわ。」


 ギク!『お父さん、娘さんアンちゃんを下さい』ってやらなきゃならないんだろうか。やっぱりやらないとマズイよねぇ。何か背中に嫌な汗かいてきたよ。

 とんだところで精神的負荷が掛かった俺は、黙ってメレカオンへミュエーを走らせた。


*****


 メレカオンに着いた俺たちは、先ず領主様タリスカー伯爵に面会したい旨の依頼をした。それから宿を探した。


「これからは2人部屋でも良いわね。」


 と言う訳で、ここでもツインのお部屋を予約です。ツインだからね、


「ごめんなさいジロー。婚約はしたけれど、父上に許しを得るまでは清いままで居ないと私破門されちゃうの。だから父上に会うまで待っていて。」


 前世でも魔法使いだった俺には、いきなりアンちゃんを押し倒す様な勇気だか、肝っ玉だか、根性だかは持ち合わせていません。今まで通りで結構でございます。


 同じ部屋に泊まると言うだけでドキドキしてしまう、二人とも初心うぶなカップルなのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る