第117話

 どうしてこうなった。いや、ドワーフの性格を考えると至極当然の事だったのかも知れない。それでもなぁ。


「カンパーイ!」


 あちらこちらからジョッキをぶつけ合う音がする。今やラジアンの街は盛大なお祭り騒ぎだ。その中心に居るのがこの俺だ。


「ジローのお陰でトマヒヒンと戦争にならずに済んだ。感謝してるぜ。」


 これはまあ良い。アリア様の力もお借りしたが、何とか開戦を回避して来たのだからそんなに間違っちゃあいない。


「おめでとう、ジロー。結婚したならしたって言ってくれよ。水臭いな。親友じゃないか。」

「俺は子供が出来たって聞いたぞ。」

「双子らしいな。」

「儂は三つ子と聞いたぞ。」


 アンちゃんとヨーゼフが打合せしている間、毎日居酒屋に来ていたらこんな事態になってしまった。もう街中親友だらけ。無茶苦茶だ。


 大体婚約しただけで未だ結婚もしていないのに、もう子供が出来た事にされている。噂は恐ろしいなあ。特に盛大に尾鰭が付くから厄介だ。実感した今なら、俺に腹パンしたアンちゃんの気持ちが分かるよ。あの時はごめんね、アンちゃん。


「おーい、ジロー。」


 今度は誰かと顔を向けると、既に赤い顔をしたユルゲンが寄って来た。


「アンナと婚約したんだってな。おめでとう。」

「ああ。祝ってくれてありがとう。」


 ユルゲンの所には正確な情報が伝わっている様で安心した。真面目なドワーフも居る様で安心した。


「だが、街中こんな調子で酔っ払いばかりだが大丈夫なのか?あんたもかなり顔が赤い様だが。」

「問題ない、問題ない。街の3/4が飲んだくれているだけだ。」


 おいおい。それはもう大問題なんじゃないか?大丈夫なのかラジアン。もう街として機能してないんじゃないか?


「後の1/4って誰なんだ?自警団か?」

「まあ、あいつら自警団もそうだが。あいつらだって水筒に酒詰めて見回りしておる。」

「それでこの街は大丈夫なのかよ。」

「酒を全部取り上げてみろ。それこそあいつらが暴れ出すぞ。」


 ちょっと飲むだけなら水と変わらないと言うドワーフだから出来る事だな。普通の人は真似しちゃ駄目だよ。俺以外は。


「じゃあ、真面目に働いている1/4の人たちって誰なんだい?」

「そりゃあ決まってるじゃねえか。鍛冶屋の連中よ。」

「鍛冶屋か。炉の火を落とさないためか。」

「何にも分かっちゃいないんだな、お前は。火を落とさないだけなら、一人か二人居れば十分だろうが。」


 ユルゲンは酒臭い息を吐きながら、俺に言って聞かせる様に話してくれた。


「アンナの剣を打つために決まっとろうが。ヨーゼフの奴は鍛冶職人の長老だ。それこそこの街の全ての鍛冶職人があいつの弟子と言っても良いくらいだ。あいつが精魂込めて打つと言ってるんだから、みんな手伝っとるんだよ。」


 本当に国宝を作ろうとしてるんじゃないだろうな。俺もそれなりに金は持っているが足りないんじゃなかろうか。後でヨーゼフに物納でも良いか聞いてみよう。

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