第114話

「何じゃジローか。」

「折角来たのに、何だとはご挨拶だな。」

「ところで、今日はウィスキーアレは持って無いのか?」


 だから酒の話は止めろ。アンちゃんの機嫌が悪くなるだろ。今日も寝る前に床に正座で説教されたらどうしてくれるんだ。


「後であげるから。それよりこの前の約束覚えてるよな。」

「ああ勿論だ。今日は連れて来たんだろう?それで誰の剣を打つんだ?」


 おれはアンちゃんの背中をグイっと押して、ヨーゼフの前に立たせた。何故かキョドるアンちゃん。


「このの剣を打って欲しい。」


 アンちゃんに合わせた訳じゃ無いだろうが、同じようにキョドるヨーゼフ。


「おまっ、お前冗談で言っとるんじゃ無かろうな?」


 失礼な奴だな。アンちゃんは仲間だし、仲間の攻撃力を上げるのはお約束テンプレだろ。


「冗談な訳ないだろう。な、アンちゃん。これは俺からのサプライズプレゼントだ。」


 アンちゃんが俺の方へ振り返る。両手で口元を押さえ、顔を真っ赤にして、目尻には涙を溜めている。


「わ、わ、私で良いの?ホントに?」


 こんなに喜んでもらえるなら、贈る方としても大満足だ。アンちゃんが武器屋に行くたびに、ドワーフの剣を欲しそうに見てたのを俺は知ってるんだぜ。


「勿論だとも。俺からのプレゼント、受け取って貰えるかい?」

「嬉しい。とっても嬉しいわ。ありがとうジロー。。」


 え?


「本当は私も前からジ、ジローが好きだったの。」


 ええ?


「だけど、私の方から押しかけてペアを組んだし、ジローはそんな素振り見せてくれないし、私の方が良く食べるし、・・・。」


 えええぇぇぇぇええーーーー!


 アンちゃんはとうとう泣き出してしまった。オロオロするだけの俺を見て、ヨーゼフは俺の袖を引っ張ってカウンターの裏へ連れて行った。


「お前さん、女剣士に特注の剣を設えて贈る事がどういう事を意味するのか知らんかったのか?それはな、自分と結婚してくれと言う意思表示なんじゃよ。」


 知らんかった。そんなんアリア様の常識辞典にも載ってませんよ。


「儂から見ても良い娘だと思うがどうする。今ならキャンセルも・・・。」

「いや打ってくれ。アンちゃんの剣を打ってくれ。」

「もう腹は決まったようだな。よし、分かった。儂が精魂込めて打ってやろう。」


 正直言えば、俺もアンちゃんが大好きだ。だけど、どうしても前の前世の記憶に引っ張られてしまうんだ。アンちゃんの年齢と歳の差を考えると、どうあっても『おまわりさーん、コイツです!』って言うイメージが頭から離れない。

 この世界ではアンちゃんはもう大人。結婚も合法。そう割り切って行くしかないな。これからもよろしくね。アンちゃん。

 


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