第113話

 ラジアンへ戻る前に、折角だから神殿に行って見た。朝早く行ったのに結構な人が並んでいる。口コミかフェルプス子爵が意図的に広めたのか分からないが、近隣の村からも人が来ている様だ。


「ねえジロー。あの女神像うっすらと光ってない?」


 朝早い事もあって、神殿の中はまだ薄暗い。その中で女神像は確かに光を放っていた。アリア様。ほんの僅かと仰られていましたが結構・・・やっぱり結構どころではなく、かなり目立ちますよコレ。神威込めすぎじゃないでしょうか?後で俺もコーラス様に謝ろう。俺のためにやって頂いた事でもあるし。


 さて順番が回って来た。祈りを捧げ、女神像に触れる。触れると言っても台座か足がせいぜいだ。だって台座を含めたら3mくらいの大きさがあるんだよ。どこかのお地蔵様みたいに癒したい所を撫でるとか、束子たわしでこするとかムリムリ。ま、こう言うのは信じる事が大切なんだよ。


「それじゃあ行こうか。」

「うん。」


 神殿にお参りもしたし、俺たちはラジアンへとミュエーを走らせた。


「でもアンちゃん。熱心に女神像を撫でていたけど、何処か痛い所でもあるの?」

「え、あ、うん。そう言う訳じゃ無いの。あの、えーと、ほら、平和が続きます様に、って。」


 何故かアンちゃんの挙動がおかしいが、平和であって欲しいのは俺も同じ思いだ。


「そうだね。平和が一番だよ。」


*****


「おう戻ったか。おおよそのところは手紙で読んだぞ。」


 ラジアンに戻った俺たちは、先ずユルゲンを訪ねた。そしてトマヒヒンで調べた結果を報告した。


「徴兵した農民も既に解散しているし、戦争は回避出来たと思う。」

「そう言えば、奇跡が起こったんじゃろ?ジローは見たのか?」

「俺がその当事者だよ。」


 その時の事をユルゲンに詳しく説明して聞かせた。


「そう言う訳で、今後トマヒヒンからの注文が増えるかも知れないよ。」

「望むところじゃわい。儂らも儲かって、美味い酒が飲めるってもんよ。」


 結局そこに行きつくのかよ。ほら、アンちゃんが俺を睨んでるだろ。その話は止めろ。


「そうしたら、徒弟が打ったまあまあの剣も卸してやろうかの。土産物には丁度良いだろう。徒弟も小遣いが入るし。後で親方連中に話をしておこう。」


 街の経営も大変だな。殴り合いと酒量ドワーフ制民主主義で選ばれたユルゲンが問題なく治めているのだから、ドワーフってみんな優秀なのかも知れないな。

 治めるで思い出した。ロルマジアに行って、宰相閣下にも報告しなくちゃね。


 領主の館を辞した俺たちは、今度はヨーゼフの工房へ行く。やっとアンちゃんを連れて来れたよ。本人が居ないと専用の剣は打てないからね。


 「コンチハ!!」


 相変わらず騒音が酷い工房の入り口で大声を張り上げると、ややあってヨーゼフが出て来た。

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