第108話

「ねえジロー。何でテスラ王国はロルマジアで暗殺未遂なんて起こしたのかな?」


 宿へ戻って部屋へ入ると、アンちゃんが聞いて来た。


「本気で殺すって言うよりは、陽動の方が強いんじゃないかな。殿下方がお忍びで王城から出るチャンスなんて滅多にないのに、襲って来たのは1人だけだし。」

「そう言えばそうねぇ。」

「もしかすると、帝国と内通していたのかも知れないね。帝国がビーム辺境伯を攻めている間にラジアンを占拠しよう、とか。」


「それにしては行動を起こす時期がずれてない?」

「うーん、テスラ王国の上層部お偉いさん達が正確な情報を掴んでいないんじゃないかな。リンキもロルマジアもここから遠いし。口づてだと結構話の内容が捻じ曲がるよね。エマ姫を救った女冒険者みたいに。」


 すっくと立ちあがったアンちゃんは、いきなり俺の腹を殴って来た。


「うぐっ。」

「ジローのバカ。いじわる。」


 アンちゃんはそのまま部屋から出て行ってしまった。でもねアンちゃん。本気で腹パンするのは止めて。おっさん一般人なんだから。体鍛えてないから。

 俺はそのままベッドに倒れ込んで暫く休んだ。後でアンちゃんに謝ろう。


*****


 明けて翌日、は神殿にお参りに来ている。勿論もちろんアンちゃんも一緒だよ。昨夜のうちに謝っておいた。ちゃんと謝れば一晩経てば元通り、それがこの子の良い所だ。


 お参りに来ていると言ったが、本当の目的はアリア様のお告げに従ってトマヒヒンの領主フェルプス子爵を待っている所だ。


「本当に来るかなあ。」

「きっと来るさ。女神様のお告げだからね。」


 最近ちょっとご乱心気味のアリア様であらせられるが、俺の生死に関わる事は信頼しております。なんたってそれがアリア様の願いご自分の欲望なのだから。


 2の鐘が鳴って間もなく、外が騒がしくなって来た。貴賓がお見えになった様だ。俺たちは、先ずは隅の方で大人しく見ている事にした。


 正面のドアを開けて領主と思しき人物が入って来た。あれがフェルプス子爵に違いない。前を歩くのは司教の様だ。わざわざ呼んだんだな。やはり戦勝祈願に来たとみて間違いないだろう。


 さて、ここから俺はどうするべきか?アリア様からは協会へ行きなさいと言われただけで、具体的に何をせよとは仰せつかっていない。ただ、今回は戦って勝つのではなく、戦争を止める様にとの仰せだった。ここでフェルプス子爵を説得して諦めさせれば良いのだろうか。


 俺が悩んでいるうちに儀式は始まった。司教が祝詞を唱え始めた。同時に脇から女神への捧げものを持ったシスター達が入って来た。

 シスター達は次々と女神像の前に捧げものを供えていく。そして最後にひと際小柄なシスターがワインとグラスを載せた盆を持って進んで来た。とその時、


「きゃあああぁぁ!」


 緊張の余りか、自分の裾を踏んづけた小柄なシスターがお盆をひっくり返して盛大に転んだ。

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