第107話
トマヒヒンの街はそれ程大きくない。と言うよりは小さい方だ。朝から街中を調べて回っても半日で終わってしまった。
「戦争するなら兵を集める筈でしょ。それっぽい人たちって見当たらないわよね。」
「うん。そもそも城壁内が狭いから、そんなに大勢入れないんじゃないかな。剣を買い求めに来た剣士が大勢いるしね。」
この剣士が全員戦争に加わるために来たとは思えないけど、中にはそう考える人もいるかもしれない。もう直ぐ戦争を始めようと思うなら、どこかに徴兵された人たちがいる筈だ。
「アンちゃん。午後は街の外を見て回ろうか。」
「良いわよ。」
このトマヒヒンへ通じる街道は3本。そのうちの1本はドワーフ自治領へと向かう道だ。俺たちは二手に分かれて残り2本の街道を見張る事にした。
森の中を探索する振りをしながら街道を見張っていると、大きな荷物を積んだ荷車が通って行った。荷車を引いているのは、あのマンスモだ。歩きでも追って行ける。
荷車隊から距離を取り、ミュエーから降りて隠れながらついて行くと、後ろからミュエーに乗ったアンちゃんが駆けて来た。
「ジロー。向こうの道を大荷物を積んだ荷車が通って行ったよ。きっと集めた農民兵に食べさせる食料だよ。」
「俺も今、追いかけている所だよ。一緒に後をつけて行こう。」
土地が無いからか、兵を2か所に分けている様だ。2時間くらい尾行すると少し開けた場所に出た。思った通り、そこには徴兵された農民兵達が居た。出陣前に飯を食わせてなけなしの元気を出させようって考えみたいだな。
「アンちゃんの方の荷車は何台だった?」
「3台よ。」
「こっちと同じだね。ざっと見て500人くらい居るから、合わせて1000人くらいか。」
「何処を攻めるのかしら。メレカオンかな?」
「いや、ラジアンじゃないかな。ドワーフの剣、高値で売れるらしいし。それに、過去にもドワーフ自治領はテスラ王国になってた時期もあるしね。」
テスラ王国はヘルツ王国からドワーフ自治領を掠め取ろうと言う腹だろう。アリア様からのお告げで明日教会へ行けと言うのは、領主が戦勝祈願でもするのだろうか。
ミュエーに乗った俺たちは、もう一つの街道の方も確認してみた。やはり同じぐらいの人数が集まって食事をしていた。こりゃ明日か明後日にもラジアンを占領しようって事で確定だね。
トマヒヒンへ戻ると、目立たない様に裏口からドワーフの店に入った。テスラ王国が攻め込んで来る用意をしているから十分注意して欲しいと伝えるためだ。
話を聞いたドワーフは直ぐに同じ内容の手紙を何通かしたため、鳥の足に結わえて放った。こっちの世界にも伝書鳩に似た制度があるんだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます