第106話
「一人部屋が空いてないんじゃ仕方ないな。」
「何よその言い方。私と一緒じゃ嫌、みたいじゃない。」
「そんな事ないよ。どちらかと言えば俺と一緒でアンちゃんが嫌じゃないかと思ってさ。」
「私だって大丈夫よ。だって前に、い、一緒に寝た事もあるし・・・。」
何だアンちゃんも恥ずかしいんじゃないか。さっきのは宿の女将に強がって見せただけか。
「じゃあまだ陽もあるし、ちょっと街の様子を見に行こうか。」
俺たちは連れだってトマヒヒンの街を見て回る事にした。街の目抜き通りの真ん中にドワーフの武器店が店を構えていたが、あえて寄らなかった。あまり親密なところを見られると、偶々往路だけ請け負った護衛役というカモフラージュがバレちゃうからね。アンちゃんは物欲しそうな目で眺めていた。やっぱりドワーフの剣が欲しいんだろうか。
「私、こっちのベッドね。じゃぁ、お休み。」
宿に戻った俺たちは、明日に備えて早めに就寝する事にした。アンちゃんは早々にベッドに潜り込んで、頭から毛布を被っている。灯を消して、俺もさっさと寝るか。
*****
(・・・ジローさん。)
女神様に呼ばれている気がする。このお声はアリア様か?
(ジローさん。このままでは戦争がおきて、あなたが巻き込まれてしまいます。戦争を起こしてはなりません。)
そう仰られますが、戦争を止めるなど私の力ではどうにもなりません。
(明後日の2の鐘の後、この街の領主が教会へ行きます。そこへお行なさい。)
そこで領主に思い止まる様、説得するのでしょうか。
(戦争が起きたらジローさん、またあなたは危険なところへ行ってしまう。死んでは駄目ですよ。)
承知しました。誠心誠意、努力致します。
ところでアリア様。本日はアリア様おひとり。コーラス様はどうされたのでしょうか?
(こーちゃんは眠っています。)
もしやお加減でも悪いのでしょうか。
(いいえ、私がこーちゃんのお茶に眠り薬をちょっと。だってこーちゃんったら、ちっとも私と添い寝してくれないんですもの。)
それはいくら何でも少しやり過ぎなのではありませんか?この世界の秩序が保てなくなっては困ります。
(あなたと言う使徒が居るのですから、少しくらいは大丈夫ですよ。あなたには期待しているのですよ、ジロー。私がこーちゃんと一緒にいるために。)
(一緒にお茶を飲んで、一緒にお散歩して、一緒にご飯を食べて、一緒に沐浴して、一緒に添い寝して・・・。とにかく、こーちゃんと一緒に居る為にはあなたが必要なのです。死んでは駄目ですよ。)
俺は戦争で死ぬ前に過労で死にそうな気がして来た。この世界、大丈夫だろうか。
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