第104話

 素直に白状しました。だってアンちゃん怖いんだもん。みんなでちょっとお酒飲んだだけじゃないか。


「あなたのちょっとは”ちょっと”じゃないから困るのよ。今回は相手がドワーフの人だったから良かったけど、普通なら死人が出てるわよ。」


 確かに一人1甕くらい飲んでたからな。俺以外の一般人なら泥酔どころじゃ済まなかったかも。反省します。


「で、でもお陰でドワーフの皆さんと友達になれたんだぜ。」

「それはそうなんだけど。とにかく次からは程々にしてね。」

「ハイ。」


 すっかり尻に敷かれている様な気もするが、夫婦じゃなくてペアの冒険者でもこんな感じなんだろうか?組合事務所でそれっぽい人が居たら、今度聞いてみよう。


*****


 翌朝、俺たちはトマヒヒンへ商品を治めに行く商隊の護衛役に加わった。重い武具を満載した荷馬車はゆっくりと進んで行く。ミュエーなら2日で着くところ、4日も掛かるらしい。


 ちなみに荷馬車を引いているのはミュエーではない。マンスモという見た目カバ見たいな奴だ。大人しい性格で力が強く荷馬車を引くには最適との事。ただし遅い。と言う訳で、俺たちはのんびりと移動している。


 2日目の4の鐘が鳴るころ、俺たちは街道脇の空き地に荷馬車を止めた。今日はここで野営だ。街道脇に宿がある事もあるが、大体はこの様な空き地で野営する事が殆どだ。ドワーフ達もいつもここを利用しているらしい。


 陽が落ちると辺りは真っ暗だ。俺とアンちゃん、あと護衛役のドワーフが交代で見張りをすることになる。


「俺が見張りをするから、今日はアンちゃんが先に寝てくれ。」

「うん。分かった。何かあったらすぐに起こしてね。」


 そう言いながら、アンちゃんは俺の顔を見つめて来る。何かちょっといい雰囲気。もしかして・・・?


「いい、今日はお酒飲んじゃ駄目よ。約束よ。」


 信用なーーーい、俺。でも見透かされてましたーーー!


「ま、まっさか~。いくら何でも飲まないよ。」


 暗くて見えないが、深い失望の顔をするドワーフが何人もいた。


*****


「ジロー起きて!盗賊よ!」


 交代して眠っていた俺はアンちゃんの声で起こされた。アンちゃんは懐から小刀を取り出すと暗闇に向かって投擲した。


「ううっ。」


 闇の向うからくぐもったうめき声が聞こえる。どうやら賊に命中した様だ。しかしアンちゃん、いつから忍者にジョブチェンジしたんだい?


「3方向から来る見たい。人数は20人くらいかな。」


 ドワーフは力強く接近戦は得意だが、この様な戦い方は不得手だ。ここは久しぶりに俺の魔法の出番だな。

 アンちゃんが示す方角に向けて魔法を放つ。


「ロックネイル!」


 盗賊は木の陰に隠れるかも知れないし、何なら殺してしまっても咎められる事は無い。俺は威力強めで魔法を撃ち出した。

 木々を貫通する音と賊の悲鳴が上がる。俺はアンちゃんみたいに気配を読む事が出来ないから、マシンガンを撃つが如く、それはもうたっぷりと魔法をお見舞いしてやった。


 魔法を撃つのを止めると、辺りは静けさに包まれた。ただ焚火の木がはぜる音だけがした。

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