第103話

 俺とアンちゃんはドワーフ自治領ラジアンへと街道を進んでいる。今朝早くメレカオンを発ったので、今日中には着くと思う。

 昨日の話の流れで、アンちゃんにも魔法を教える事になったが、基本やる事は殿下方と同じだ。着火の炎を大きくするところからだね。さすがに3歳児じゃないから火の始末は大丈夫と思いたい。


「もうそろそろラジアンに着くよ。着いたら領主代表のユルゲンに会いに行くから。」

「え、領主様なんでしょう?いきなり訪ねて平気なの?」

「うーん、領主は領主なんだけど貴族じゃないんだよ。」


 アンちゃんにドワーフ独自の領主代表選出方法を説明した。さすがのアンちゃんもこれは知らなかったみたいだ。


「世の中広いわね。ドワーフの考え方が変わっているのかしら?」


 前の世界前世の感覚で考える俺としては、民主主義は割と普通だと思う。まあ前の世界にも民主主義国家じゃ無い国もあった。だけど、やっぱりドワーフ制民主主義は無いな。選挙と言うよりお祭りだ。前の世界なら死人が出るぞ。


 ラジアンの街に着いた俺たちは、早速ユルゲンと面会する事にした。自警団の連中も、みな俺の事を知っている様だ。すんなり通してくれた。


 って言うか、メレカオンに行って戻ってくるまで数日しか経ってない筈なのに、俺はこの街で有名人になっている見たいだ。みんな笑顔で挨拶してくれる。挨拶してくれるのは良いのだが、皆さん小声で酒、酒、と言っているのは気のせいだろうか。きっと気のせいに違いない。アンちゃん、怖い目で俺を見ないで。


*****


「アンナです。以後お見知りおきを。」

「儂はユルゲンと言う。ジローとは親友の仲じゃ。堅苦しい挨拶など要らんよ。」


 アンちゃん、だからその”何やらかしたんだお前”見たいな目で見ないで。変な性癖に目覚めちゃったら大変でしょ。ただお友達が沢山出来ただけだからね、ね。


「ジローが戻って来たので、明日トマヒヒンの店に納品に行く事にしよう。護衛という事であればそれ程目立つ事なく街に入れるだろう。」


 ユルゲンは俺たちの到着を待っていてくれた見たいだ。人脈飲み友達は有難いね。


「そう言う訳で、今晩もここに泊って行ってくれ。」

「「承知しました。ご配慮ありがとうございます。」」


 部屋で荷物を解いて一息入れていると、ドアをノックされた。


「ジロー、入るわよ。」


 返事をする間もなく、アンちゃんが部屋へ入って来る。その目からは、”どういう事だかちゃんと説明しなさいよ”、という意図が読み取れる。アンちゃん、俺何も悪い事していないんだから。落ち着こうよ、ね。


「私に黙っている事があるでしょう?ちゃんと話してくれるわよね。」

「ハイ。」


 悪い事をした訳じゃないのに・・・。

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