第102話

 ヨーゼフと剣を打つ約束をすると、俺はメレカオンの街へ帰る事にした。ラジアンへ来た時は森の中を通って来たが、帰りは街道を通るので楽チンだ。ミュエーも気持ちよく走っている。

 だが、中途半端な時間に出て来たので途中で夜になってしまい、やむなく野宿して一夜を過ごした。結局メレカオンへは翌日午前中のやや早い時間に着いた。アンちゃんはまだ宿屋に居るかな?


「何処に行ってたのよ!」


 宿に戻ると、早速アンちゃんに叱られました。ゴメンなさい。


「薬草採取していたらうっかりドワーフ自治領に入っちゃって、事情聴取されてたんだ。」


 俺はラジアンでドワーフに説明した事、ドワーフから聞き出した事をアンちゃんに説明した。ただし、ドワーフ達と酒盛りしてた事は内緒だ。


「そう言う訳で、今度テスラ王国のトマヒヒンへ行って見ようと思う。何か情報が得られるかも知れない。」

「今度は私も一緒に行くわよ。」

「そう言えば修行の方はどんな具合なんだい?」


 今度はアンちゃんが説明する番だ。


「この街にあるのはピンポル流の道場だけだから、そこへ稽古を付けて貰いに行ったの。」


 この街にはピンポル流しかないが、それだけに由緒正しい道場らしい。何でもピンポル流の開祖が開いた道場だとか。そこの宗家に会う事が出来たと話してくれた。


「それがね、すごいおじいちゃんなの。もう引退しているから稽古は師範や師範代が付けてくれるのだけど、偶に道場に来るらしくって。」

「運が良いね、アンちゃん。どんな話が聞けたのさ。」


 何でも、アンちゃんの曾祖父がレイウス流を開いたのだけど、その曾祖父は若い時にピンポル流の稽古もしていたらしい。


「その大先生はうちの曾祖父ひいおじいちゃんとも稽古したんですって。それで私と同じ火と水の魔法が使えたんですって。」


 何でも、アンちゃんの曾祖父はアンちゃんが生まれる前に亡くなっていて、直接話をした事は無いらしい。


「それで私の剣の型を見て頂いたのだけど、『剣の方はもう少しだ。あとは魔法の練習をしなさい』なんて仰るのよ。変よね。まあ、旅するのにはとても役立つのだけれども。」


 おれはアンちゃんの家の事について、今更ながらあまり知らない事に気づいた。あまり根掘り葉掘り聞くもんじゃないと思っていたけど、今度良く聞いてみようかな。前にロルマジアにもレイウス流の道場があるって聞いたし、親戚なんだろうか?


「それでね。大先生のお話じゃないけど、私も少し魔法の練習して見ようかなーって。ねえジロー、私にも教えてくれる?」

「構わないけど、どういう風の吹き回しなんだい?」

「だ、だってほら、王都ロルマジアに帰ったらまた殿下方の家庭教師するんでしょ?だって私、アシスタントのお姉さんですもの。」


 生徒が一人増えました。

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