第101話

「ここは工房で、一般販売はしてねえんだ。悪いな。武器屋へ行ってくれ。」

「俺はロルマジアでケネスから紹介を受けてやって来たんだ。剣を打って貰えないだろうか。」


 ヨーゼフはジロっと俺を見ると、紹介状はあるのかと聞いて来た。まあ、どう見ても俺は剣士には見えないしね。


「おっと、これが紹介状だ。」

「ふーん、お前さんはジローって言うのか。それで自分用じゃなくて仲間の剣を作りたい、と。」

「今日は俺一人で来てしまったので、次回連れて来ようと思う。」


 アンちゃん今頃どうしてるかな?ここの用が済んだら早く帰んなきゃ。


「ま、ケネスあいつの紹介なら打ってやらん事も無いが。あいつは元気にしているか。」

「俺があったのは半月位前だが、元気そうだったよ。」

「それは何よりだ。あいつは儂の孫なんじゃ。」


 祖父と孫なのか。だから何となく似ていたんだな。


「でも驚いたな。ケネスからは祖父だとは聞かされていなかったからな。」

「そりゃそうじゃろう。儂とケネスは肉親ではあるが、あいつに鍛冶を教えたのは儂だからな。職人の関係では儂が師匠であいつは弟子じゃ。鍛冶仕事の事で儂を師匠と呼ぶのは当然じゃよ。」


 そんなものなのかな。俺には良く分らないが、徒弟制度とはそんなもんなんだろうと納得するしかない。


「ところで、この紹介状ケネスの手紙にはとんでもなく美味い酒を飲んだと書いてあるが・・・。」


 やっぱりこの人もドワーフだわ。ドワーフみな酒大好き。


「飲みたいのか?」

「勿論じゃ。」

「仕事は良いのか。途中の様だが?」

「ちょっと飲むくらいなら、休憩のお茶と変わらんわい。」


 俺はちょっとしたイタズラ心で湯呑を2個用意して貰った。片方にはブランデーいつものやつ、もう一方にはウィスキー新しいやつを注いだ。


 ヨーゼフは酒の香りをいで、先ずはブランデーから飲む様だ。湯呑を持つと一気に呷る。おいおい、ここでも一気飲みかよ。次いでヨーゼフはウィスキーの湯呑を手に取ると、こっちも一気に飲み干した。そんなんで味わかるのか?


 ヨーゼフは目を閉じて、何かぶつぶつ呟いている。ケネスの爺さんって事は結構な歳だよな。大丈夫かな。俺心配になって来た。良い子のみんなはお酒の一気飲みなんてしちゃ駄目だよ。


「儂は2杯目の方が気に入った。是非分けてくれんか。な、頼む。」


 ヨーゼフはウィスキーの方が好みだった様だ。俺は外に繋いでいるミュエーへ取りに行く振りをして収納からウィスキーの甕を取り出した。


「今までに飲んだ事が無い酒じゃ。この香りと言い、酒精アルコールの強さと言い、複雑な味わいと言い、・・・。」


 何か一人世界に入っちゃってるけど、大丈夫だよね。暫く待っていると、どうやら戻って来た様だ。


「これだけの酒を貰ったんだ。精魂込めた剣を打ってやる。心配するな。」


 ドワーフに蒸留酒袖の下は良く効くな。

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