第100話

「前にビーム辺境伯領でウェーバー帝国と戦争があったろう。儂らの土地もあんな風に戦場になるんかいな。」


 ここはテスラ王国と国境を接している。その可能性は無くはない。ただどうだろう。過去の例から言って、ドワーフ自治領が戦場になる事は少ない気もする。


「ここは昔から自治を認められていて、ヘルツ王国領だったりテスラ王国領だったりしただろう?今回も中立を保てば、このドワーフ自治領は安全なんじゃないかな。」


 ドワーフ達は一様にほっとした顔をしたが、ややあって思い直した様にユルゲンが言った。


「テスラ王国の奴らは儂らの土地を不法に通り抜けて行きよる。なめられとる証拠だ。もしテスラ王国領になったら、儂らの自治も取り上げられるかも知れん。油断は出来んぞ。」

「確かに、テスラ王国からくる商人たちの態度も悪いな。」


 自警団団長も同意の様だ。


「それに、ジローには酒造りの秘法を教えて貰った。この恩も返さにゃならん。」


 やっぱりドワーフってすげえわ。酒中心に世の中が回っているみたいだ。あとでまたブランデー袖の下渡しておこう。


「テスラ王国から商人が来るのか。そう言えば、ロルマジアにケネスがやっている武器屋があったな。」

「それは儂らがロルマジアに出しとる店だ。あそこは販売とメンテナンスしかやっとらんがな。」


 直営店見たいな感じかな?そう言えば、ケネスもここでは剣は打てないって言ってたもんな。


「他にも出店しているのかい。」

「この近くだと、テスラ王国の国境の街トマヒヒンに儂らの店があるぞ。」

「店があるのに、商人が買い付けに来るのか。何かあやしいな。」


 戦争の準備でもしているんじゃないだろうな。これは一度テスラ王国の様子も見ておいた方が良いかも知れない。一度アンちゃんと相談しようかな。


 と、ここで俺はある事を思いだした。ラジアンの街に行ったら師匠のヨーゼフに渡すよう、ケネスから紹介状を書いて貰っていたんだった。いやー、すっかり忘れてたよ。


「俺は一度メレカオンに戻る。仲間が待ってるんだ。それからトマヒヒンの様子を見に行こうと思う。」

「おう、分かった。トマヒヒンに行く前に一言声を掛けてくれ。」


 おれはふところから紹介状を出すと、ユルゲンに聞いた。


「ロルマジアのケネスに紹介状を書いて貰ったんだが、ヨーゼフの工房は何処にあるんだ?教えてくれないか。」

「そう言えばケネスはアイツの弟子だったな。俺がこれから案内してやろう。」


 自警団団長が教えてくれる事になった。会議は一先ずお開きになったので、家に戻る道すがら案内してもらった。


「こんにちは。こんにちは!コンチハ!!」


 ヨーゼフの工房に入って声を掛けるが、奥から途轍もない騒音がしている。俺は負けじと大声を張り上げた。

 暫くすると音が止み、奥からケネスに似たドワーフが出て来た。


「何の用じゃい。」

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