第99話
「何だと。あの酒がワインから出来ているだと!」
「ああそうだ。」
「味も、香りも、アルコール度数も違うと思うが?」
流石酒造りの親方だけの事はある。ただ飲んで酔っ払ってた訳じゃないんだな。
実は、俺がこの世界に来てから宿や食堂、あるいはお貴族様の所で飲んだ酒はみな醸造酒だった。今回のブランデー見たいな蒸留酒は一回も出て来たためしがない。俺はこの世界には蒸留すると言う技術が無いのではと思っている。
「なあ、ユルゲン。蒸留って知っているか?」
「何だそれは?」
やっぱり知らないみたいだ。
「料理の風味付けに酒を入れる事があるだろう?」
「ああ。勿体ない事しやがる。」
あくまで飲む事に拘るドワーフ。酒を入れると臭みを取ったり風味が増したりするんだが、それはもうどうでもいいや。
「酒を温めてやると、アルコールが先に蒸発するんだよ。蒸発したアルコールを冷やして集めるとより度数の高い酒になるのさ。」
「何じゃと!」
「どの位の度数にすれば良いか等は、俺は詳しくないので説明出来ない。後は木の樽に詰めて数年寝かせておくと完成だな。俺が知ってる事ってこの位のもんだ。役に立ったかい?」
「何とかする。何とかして見せる!」
ユルゲンは唸りながら考え込んでいる。もう少し煽っておこうかな。主に俺の将来の楽しみのために。地酒。あれは良いものだ。
「ちなみに、エールを蒸留するとまた別の酒になるんだぜ。その辺は色々と試してみてくれ。」
後はドワーフの器用さと酒への熱意に期待しよう。頑張れユルゲン。吉報を待っているぞ。
「それじゃ、今度は俺の仕事も手伝ってもらって良いかな。」
「儂に出来る事なら任せてもらおう。何しろ酒を酌み交わした奴は親友だからな。」
豪快に笑っているが、ドワーフってそんなに簡単に親友が出来るのか。ボッチのおっさんにはドワーフの親友が沢山出来そうだが、友人がみんなドワーフって言うのもどうだろう。もうちょっと別のお友達も作る様に頑張ろう。うん。
ユルゲンのお弟子さんにはお引き取り願って、代わりに書記官と自警団団長を呼んでもらった。
「実は俺には冒険者として依頼をこなす以外に、宰相閣下から密命を頂いているんだ。」
「安心してくれ。ここに居るのはみんな信用のおける奴らだ。何しろ親友だからな。」
何か調子が狂うが、俺は話を続けた。
「この前王女殿下が暴漢に狙われた話は知っているか?」
「知っているとも。ビキニアーマーを着たガチムチの女冒険者が暴漢の首を斬り飛ばして王女殿下を守った、ってヤツだろう?」
「・・・ま、まあその件だ」
俺は噂の恐ろしさを再確認した。この件についてはコメントを控えさせてもらおう。
「その一件にテスラ王国が一枚噛んでいるらしい。そいつを調べに来たんだ。」
急にドワーフ達の顔つきが真剣なものへと変わった。
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