第87話

 最初は見取り稽古だけのつもりだったのだが、何回か通っているうちに稽古に混ぜて貰える様になったらしい。宰相閣下の書状の威力は凄いな。


 騎士団の方はフレッド隊長が何かと融通を利かせてくれるらしい。俺は背中がゾクゾクして来たよ。そっちには近づかない様にしよう。


*****


「陛下からお話があったと思いますが、当面火魔法はお休みにして水魔法と風魔法の練習をしたいと思います。」


 次の魔法の練習の日、俺はまず最初に火魔法は当面やらないよとご説明させて頂いた。エマ王女が俯いちゃってるよ。ここはちょっとフォロー入れておかないと。


「水魔法も風魔法も練習次第で強力な魔法になります。火魔法も今後絶対にお教えしないと言う訳ではありませんよ。エマ殿下。」

「それに・・・」


 ちょいちょいと手招きをして、少し離れたところで控えているアンちゃんを呼ぶ。エマ王女に手の甲を見て頂くためだ。勿論回復魔法で治療済みなので火傷の跡など全くない。


「先日の火傷はもうすっかり治っておりますのでご安心下さい。」


 アンちゃんの手をご覧になられたエマ王女は確かめる様にアンちゃんの手をにぎにぎされた。


「いたくない?」

「全く問題ありません。」


 アンちゃんが答えると漸く姫様に笑顔が戻った。やっぱり子供は元気な方が良いよね。程度次第だけどさ。


 ところで、アンちゃんが今日ここに居るのは俺が無理やり引っ張って来たからではない。組合の仕事を受けての事だ。

 さすがに王都の周りに魔獣は出ない。薬草を採取する様な野原もない。王家が管理する森はあるが、一般人は立ち入り不可だ。と言う訳で王都ロルマジアには殆ど冒険者は居ないのだ。居てもする事無いから。


 ロルマジア駐在の俺たちは何すれば良いの?って言う事になってしまうのだが、そこは宰相閣下。俺の家庭教師を組合に発注して俺たちがそれを請け負う、と言う仕組みを作って頂いていた。俺たちも知らないうちにだよ。さすが仕事が出来る男は違うね。


 では早速アシスタントのお姉さんにお仕事をお願いしましょう。と言っても紙を細かく切るだけなんだけどね。このお姉さん、刃物の使い方は上手だから。


「では、ギルバート殿下とエマ殿下は風魔法の練習をしましょう。先ずはそよ風でこの細かく切った紙を飛ばして下さい。」


 ギルバート殿下とエマ殿下には風魔法の課題を与えた。風魔法が使えないエリック殿下には、前回に引き続き水魔法の練習をして頂く。今思い出したけど、水魔法と風魔法だけの授業だとエリック殿下は水魔法オンリーになっちゃうね。風魔法がつかえないから。


 エリック殿下には申し訳ないけれど、水魔法のみで頑張って頂こう。エリック殿下は魔法があまりお得意では無いご様子なので、じっくりと水魔法に取り組んで頂くのも良いかも知れないしね。

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